祈りの島・大神島へ(沖縄・宮古島)
沖縄・宮古諸島の宮古島と池間島を結ぶ海上道路「池間大橋」を渡っていると、青碧色の海の彼方に、裾野の広いピラミッドのような島が見える。
大神島だ、キングコングの住んでいそうな島である。何度か訪れた宮古島だが、今まで意識したことはなかったのだが、今回は島の名物 “カーキダコ” と呼ばれる島ダコの燻製を食べたくて、大神島への上陸を試みた。
宮古島の北東約4キロ沖に浮かぶこの島には海上道路などはなく、島尻漁港からの定期船で行かなければならない。僕が向かった9月には定期船は日に5往復していたが、冬季になると4往復になってしまう。島に一軒しかない食堂でカーキダコを使ったカーキダコ丼というのを食べられるということなので、それを昼食にしようと島尻漁港を午前11時に出港する船に乗ることにした。
漁港には出航の1時間前に着いたのだが小さな乗船券の販売所にまだ人の姿はなく、その周りもひっそりとしている。一応漁港なのだが漁船の姿もない。そこで、車で5分ほどのところにあるマングローブ林を撮影しに行く。ここにも人の姿がない。マングローブの繁る川沿いには遊歩道が設置され、ソッと下を覗くと干潟の上ではあちこちで赤い甲羅をしたシオマネキが、一匹のメスをめぐって大きなハサミを使って争いをしている。人がいないので臆病なはずのシオマネキも大胆に格闘の姿を披露してくれる。オス同士は一生懸命戦っているというのに争いの元となったメスは、なぜか穴の中に隠れてしまった。なんということだ。そんな小競り合いを撮影しているうちに船の出航時間が近づいた。
漁港に戻ると駐車場には車が数台止まり、数人の観光客の姿があった。乗船券の販売が始まっていたので早速購入し定期船「スマヌかりゆす」に乗り込む。船内には20名ほどが乗りこんでいて、カヌーを積みこんでいる人もいる。後部のデッキで風景の撮影をしながら行こうと思っていたのだが、デッキはカヌーやら島に運ぶ荷物が一杯で不本意にも船内に入れられてしまった。
15分ほどで大神島に到着!
港には刺し網を積んだ漁船が一艘係留されている。上陸した目の前の人家の塀にも刺し網が干されているので漁師もいるようだが、観光客以外に人の姿はない。
周囲2.753キロ、面積0.24平方キロの小さな島だが、昔から「大神島には神様がいる」と伝えられ、みだりに入ってはならない「聖域」がたくさんあり、むやみに歩き回るのははばかられる。
そこで、まずはカーキダコを食べさせてくれる食堂を確認しに行く。それは港の目の前にあり白い外壁に「おぷゆう食堂」と書かれた、島で唯一の食堂である。帰りの船が13時発なので、食事は後にして、標高74.5mの山?丘?にある遠見台(トゥンバラ)に上り、そこからの景色を撮影することにした。トゥンバラに向かって細い道を登っていく、少し前を歩く二人連れの観光客の手にはそれぞれお茶のペットボトルが握られている。しまった、僕は飲み物を何も持っていない。これからトゥンバラまでどのくらい歩くのだろう…途中に飲み物の自動販売機があるはずもない。脱水症状になるのではという恐怖のまま、登る。何軒かの民家の前を通り過ぎると、その門柱にはスイジガイの貝殻がかけられている。名前のとおり漢字の「水」に似た形状から、火災除けや魔除けとして使われているのだ。そんな風景を通り過ぎ小さな畑を通り過ぎると、両脇に木々が茂るだけの道となる。幸い木々が日陰を作ってくれるので喉は乾かないですむ。どれくらい歩いただろう、僕の頭の中ではかなりの時間が経っているのだが、ようやくトゥンバラに到着!時計を見ると15分ほどしかたっていなかった。かなり歩いたはずなのだが…。
ともあれ、目の前には、素晴らしい360度のパノラマが広がっていた。青碧のグラデーションが広がる海と島唯一の港も良く見える。港の近くの海岸にはノッチ(奇岩)と呼ばれる丸いキノコのような形をした岩が並んでいる。このノッチは島の隆起によって地表から転がり落ちた岩が長年にわたり波で浸食され、根元が少しずつ削られたために不思議な形になったそうだ。絶景を堪能し、来た道を戻って食堂にたどり着いたのは、正午少し前だ。
店に入ると小父さんが椅子に座っている。他にお客さんの姿はなくのんびりとした感じ。壁にメニューが貼られ、カーキダコ丼の他、宮古そばやカレー、かき氷などの文字が目に飛び込んでくる。早速、カーキダコ丼を注文。お膳に乗って出てきたカーキダコ丼は、カーキダコを薄くスライスしたものと玉ねぎを甘辛く炒めたものが、ご飯の上に乗ったものだった。心地よい噛み心地のタコとしゃきしゃきの玉ねぎが良くマッチしている。お膳にはもずくと生野菜の小鉢にアーサ汁も付いていた。
小父さんにカーキダコのことを聞くと、自分で獲ってきたタコを干してそれを薪で燻して作っているそうだ。でも、一人で作っているのでなかなか多くはできないとのこと。
タコが干されている風景を撮影したかったなぁ。
お土産用に薄くスライスしたカーキダコをパック詰めにして、販売もしているという。すぐ品切れになるそうだがラッキーなことに「今日はまだ残っているよ」ということなので、一パック購入する。パックには貴重なカーキダコが沢山詰められていて、ふたを開けるとほのかな燻煙の香りが鼻をくすぐる。そのまま摘まむと噛めば噛むほどタコの旨味が口の中にあふれ出る。酒の肴にもってこいの逸品だ。
昔はこの地域の方たちの特産品として、米やイモなどとの物々交換にも使われていたそうだが、今ではカーキダコを作る跡継ぎもいないようで何時までこれを食べることができるのか心配になった。大神島の伝統食、カーキダコを絶やさないでほしいと願うばかりである。