白田遼平37歳。豊洲市場水産仲卸「大宗」の鮮冷チームの一員である。ウニを主に担当。肩書はウニ師。

ウニ師!? なんかすご~い。初めて聞いた名前です。
「オレのオリジナルです。自己ブランデイングしたいっていうか。ネット検索したら、ウニキングとかウニマスターとかあって。でも、違うだろって。閃いたのがウニ師」
豊洲市場、ウニは競りで取り引きする※1。ウニ歴ウン十年のツワモノ連がひしめく競り場のひな壇に、白田さんが初めて立ったのは、新型コロナが流行り始めた頃。前日は、緊張のあまり、一睡もできなかった。そこから、まだ3年ちょっと。オイオイ、大丈夫かい、ウニ師なんて。
※1 ウニの競り。全国の市場で、競りによる取り引きは、豊洲市場のみ。世界中からブランドのウニが集まる市場として注目されている。
大宗は、日本橋魚河岸時代に始まる名門仲卸。白田さんは、直系の長男である。ずっとマグロ専門でやってきた大宗だが、父純一さんは「もうマグロ一本の時代ではない」と考え、鮮魚や冷凍魚も扱うようになった。取り扱い品目を増やすだけではない。目指すところは、脱仲卸、商社のような仲卸だ。東日本大震災の翌年に入社した白田さんは、そんな戦略下で仕事を覚えていった。
商社のような仲卸。その一つに、「輸出」がある。豊洲市場で、ウニは人気の輸出品目で、全入荷量の半分、いやもっと多くが輸出に回る日もある。相手先は、香港、アメリカ、タイ、シンガポールなどの寿司屋や和食店など。
白田さんが扱うウニも、半分ほどは海外向けだ。

某日。店頭の冷蔵ショーケースに積まれたウニの数は、180枚※2。色味、メーカー、価格の違いにより、種類は25種。白田さんいわく「海外は、白より赤を好む」そうだ。「赤」はエゾバフンウニ、「白」はキタムラサキウニのことだ。
※2 数える単位は「枚」。
7時前。注文伝票を睨みながら、数と種類ごとに仕分けていく。それを手のあいたスタッフが包装する。ナイスなチームプレイで、バンコク行き70枚余りの梱包ができあがった。あとはNAX JAPAN(国際貨物輸送会社)を通じてバンコクへ。同地のシッパーを経て、飲食店へ。明日のディナーには使える。

「ウチ、もともとはウニ、仲間から買ってたんですよ※3。だけど徐々に注文が増えて、オレが競りにでることになった。初めはヤリを出すので精いっぱいですよ」
ウニの競りは、駆け引きなしの一発勝負。相場は乱高下し、目利きが難しい※4。
「高いものは、1枚10万円超えも。目利きに自信ないから、そんなヤツ、怖くて手が出せませんよ」
※3 仲間から買う。同業者である仲卸から買うこと。仲間買いとも呼ぶ古くからの商習慣。
※4 ウニの競りは、マグロのように競り上げていくのではなく、1回で決まる。
ところが、9か月を過ぎた頃、いきなり転機が訪れた。
なじみの客が「明日は、1番のウニを買ってほしい」と。1番のウニ。その日最高のウニのことだ。
「イ、イチバンですかぁ。あのう、いくらまでだったら出せますか」
「10万円まで」
翌日の競り。まっさきに競り人のもとに行った。
「今日は1番、買いたいんで、お願いします」
競りに参加するのは、40名ほど。1番狙いの顔ぶれは決まっており、競り人は彼ら中心で値を拾う。
だから、今日は、「オレのヤリも見てほしい」と。
「『10万円でダイソウ』っていう競り人の声、鳥肌、たちましたよ」
しかし、それ以上にヤッタと思ったのは、2番値が、9万円だったことだ。
「10万円というのは、客の要望というより、その日は、それしかないと、自分が付けた値段。次が9万円と聞いて、10万円は適正だったわけで。自信、つきました」


今、冷蔵ショーケースには、「東沢」「羽立」「橘」といった超高級ブランドメーカーのウニが日替わりでならぶ※5。
※5 高級ブランドメーカー。ウニの目利きは、産地からウニを買い集め、小箱に仕立てるメーカーの技量も大きなポイントとなる。
「かなりヤバいっすよ、今。仲間から買ってたころのウニの売り上げは、月100万円そこら。今、1800万円。ちょっと自慢していいと思いません?」
3年で18倍!背景には、いろんなプラス要因が重なっている。
まず、豊洲市場全体でウニの輸出が好調で、それにうまく乗っかれたこと。さらに、会社全体が、営業に力を入れており、九州ほか地方出しにも積極的だ。
極めつけは、SNSを使った情報の拡散だろう。仕入れたウニは、種類ごとに店頭で撮影する。左手でウニの箱を持って、スマホでカシャッ。アングル、光線の加減。なかなかのお手並みである。仕入れるウニの種類は、日により15~20。それぞれにメーカー、産地、価格、在庫数を記すほか、その日の相場感、近々の入荷予想なども添える。店に足を運ぶ必要がないほど、行き届いた内容である。

「ウニ担当になった当初から、SNSやってましたが、手ごたえ、感じたのは1年半ほど前から。売り上げも、リンクしていった感はあります」
18倍アップのどや顔を、もっとも後押ししたのは、SNSらしい。
実は、「ウニ師」という肩書もSNSでの販売に深くかかわっている。
ウニを買う客は、試食なし、見てくれと値段、もろもろの情報で選ぶ。白田さん流SNSは、そこらはクリアしている。だとすると、欠けるものは・・・? 人と人との関係だろうか。この人から買っている。この人が選んだものだから安心だ、という信頼感。それを印象づける言葉が「ウニ師」なのだ。
ウニの配送用の箱に貼る専用シールには、取り扱い注意の言葉とともに、「ウニ師 白田遼平」の文字が目立つ。白田遼平が、自信を持って選んだ商品です、というアピールである。このシールを使って1年。「ウニ師」効果のほどはわからないが、少なくとも売り上げはのびている。

「今、考えているのは、〔ウニ師・白田遼平〕と書いたウニの箱の蓋に貼るシール。その日買い付けた、超マジこれぞってのに貼りたいんですよ。プレミアム感満載でしょ。インスタにアップされて、世界に拡散なんて面白いと思いません?」
瞳キラキラ。並みいる先輩諸氏をおいて、この屈託のなさときたら。
ウニ師。師という言葉は、専門を究めた人、という意味だ。タダモンじゃないというか。白田さん、もちろん、自分がその域に達しているとは思っていない。今は、「ウニ師」と掲げた看板を旗振りに、ガムシャラに驀進中、といったとこだ。
聞いてみた、ほんまもんのウニ師って?
「う~ん、ま、とりあえず月間売り上げ2000万円超え」
江戸から続く魚問屋DNA全開の答えが返ってきたのだった。
(第2回へつづく)