「はま女子カフェ」の開催
2025年9月27日、岩手県釜石市において、三陸地域の漁業やまちづくりの現場で日々奮闘する女性たちが、ゆるやかにつながり、語り合う場として企画された「はま女子カフェ」が開催された。趣旨に興味を持ち、釜石市、大船渡市、宮古市、盛岡市、東京から集まった女性たちが、良く晴れた土曜日の午後、賑やかに笑い合い、真剣に話し合った。
地域再生の拠点「co-ba Kamaishi」
開催場所となったのは、釜石市にあるコワーキングスペース「co-ba Kamaishi」。かつて鉄の町として栄えた釜石は、2011年の津波によって大きな被害を受けた。その後の定住人口の減少や働く場の不足と言った課題は、深刻さを増している。しかし一方で、人やモノが新たに流れ込んできてもいる。地域に根ざした資源を見つめ直し、未来を描こうとする人々が集うことをコンセプトに整備されたこの空間は、古き良きものと新しい挑戦が交差する、“再生の拠点” として生まれ、まさに「はま女子カフェ」の開催にうってつけの場所だった。
浜の女性たちが気軽に語り合える場を!
このイベントの発起人は、宮古市重茂で宮古市の地域おこし協力隊として観光推進業務に従事しながら、ウニ漁や夫の実家の養殖仕事にも取り組んでいる中村菜摘さんと、大船渡市越喜来に夫とともにIターン移住し、ホタテやワカメ養殖業を営む岡田真由美さん。そして、地域の漁業や暮らしを支える活動を行っている (一社) うみ・ひと・くらしネットワークがサポート役として加わった。
三陸の浜には、日々の仕事や暮らしの中で工夫を重ねながら地域を支えている女性たちがたくさんいる。しかし、そうした女性たちが集まり、日々の悩みや活動のアイディアを気軽に語り合う場はまだ限られている。そこで中村さんと岡田さんは、「浜で活動する女性たちが、海や地域の未来について自由に語り合える場をつくろう」と浜の女性たちに声をかけ、「お茶とお菓子を囲んで、気軽に話せるカフェのような場」をイメージして、このイベントを企画した。
集まった多彩な参加者
当日は、さまざまな背景を持つ女性たちが集まった。発起人の岡田さんと中村さん。大船渡で貝殻やウニの棘を使ったアクセサリーを制作・販売している佐藤真優子さん。釜石湾の平田で生まれ育った高澤友子さん。彼女は釜石湾漁協平田女性部の部長であり、リンパマッサージのセラピスト、さらにはセラピストを育てる講師でもあるという多才な一面を持つ。また、釜石市尾崎白浜からは、結婚以来半世紀にわたり漁業に従事してきた、釜石湾漁協白浜浦女性部副部長の佐々木則子さんと、同漁協女性部長でありアカモクの加工にも取り組む佐々木淳子さんが参加。佐々木淳子さんは、東日本大震災でご両親を津波で亡くされた経験を持ちながらも、地域の女性たちとともに前を向いて活動を続けている。さらに、中村さんが大学時代に下関でまちづくり活動をしていた頃の仲間で、現在は東京在住の橋本京子さんや、県庁職員の阿部さんと松川さん、取材を兼ねて参加してくださった岩手日報の金野訓子さん、摂南大学生でうみひとネットの学生会員の多田百恵さん、そしてうみひとネットメンバーも参加し、にぎやかで温かな集まりとなった。
それぞれの浜から始まる工夫と挑戦
それぞれの自己紹介の後は、思い思いに自由に話し合う時間となった。話題は自然と、日々の仕事や地域での取り組みに広がっていった。
白浜浦の佐々木淳子さんは、漁協女性部の活動資金を確保するために加工品づくりを行っている。活動を長く続けるためには、「誰か一人に負担が偏らないようにすることが大事」と語る。無理をせず、みんなで支え合う姿勢が、活動の継続につながっているのだ。
一方、アクセサリー作家の佐藤さんは、家の敷地内に6畳ほどのアトリエを構え、材料集めから制作、イベント出展、発送作業まで、すべて一人でこなしている。ふるさと納税の注文も増え、忙しさは増すばかり。「人を雇えば?」という声もあがったが、「自分の思いや基準があるから、なかなか他人に任せられない」と語る姿には、ものづくりへの強いこだわりと誇りがにじむ。
中村さんは、茎わかめの加工品づくりに挑戦中。少しずつ形になってきているが、アドバイスをもらっている食の専門家は昆布に注目しているようで、方向性に悩む場面もあるという。さらに、未利用資源を活用した商品開発にも関心を寄せており、「雑魚のブイヤベースでまちおこしをしている地域もある」と、他地域の事例にも目を向ける。
これからの海をみつめて
その他にも「B級ウニ(色が悪いなどの理由で出荷できないもの)を活用できないか」「海藻は魚に比べて注目されにくいが、可能性はある」など、さまざまなアイディアが飛び交った。また、岩手県では漁業経験がない新規就業希望者を対象として、水産業の担い手育成のための研修を実施する「いわて水産アカデミー」が開催されているが、こういった研修に最近は女性の参加が見られるようになっていることや、「漁協女性部に所属していなくても、漁業に関わる女性が認定される仕組みがあってもいいのでは」といった制度面での情報や提案もあった。
海の恵みを活かす
イベントの最後には、佐藤さんのアクセサリーの即売会を実施。さんまのうろこや海藻、ウニの棘など、海の恵みを活かした一点もののアクセサリーが並べられ、参加者たちは目を輝かせながら一つ一つ手に取って感想を述べあい、購入していた。海は、まだまだたくさんの可能性を秘めている。アイディアと情熱があれば、どんな素材も輝きを放つのだと、改めて感じさせられる瞬間だった。
「はま女子カフェ」が生みだすもの
「はま女子カフェ」は、特別な講演やワークショップがあったわけではない。ただ、海とともに生きる女性たちや想いを共有する仲間が集まり、語り合い、笑い合い、時に悩みを話し合う時間だった。けれども、そういった「場」が、どれほど貴重で、楽しいものだったかは、参加者の表情が物語っていたと思う。
三陸の浜は、地区ごとに海の表情も、漁業の形も異なる。でも、だからこそ、それぞれの工夫や経験が、互いのヒントになる。今回の「はま女子カフェ」は、そんな気づきとつながりを生む、あたたかな出会いの場となった。
三陸の海とともに生きる女性たちの挑戦は、これからも続いていく。そして願わくは、こうした地域で頑張っている人たちが、気軽に集まり、語り合い、情報交換できる場が、全国あちこちに広がっていったら、それはどんなに素敵なことだろう。今回は「はま女子カフェ三陸」。いつか、「はま女子カフェ北海道」や「はま女子カフェ瀬戸内」なんて名前が聞こえてくる日が来るかもしれない。いや、来るといいな。そんなちょっと先の未来を海辺の小さな “カフェ” から、そっと夢見た一日だった。
(連載 第17回 へ続く)
