今後に向けて
司会:3番目の議題が終わりました。最後にそれぞれ一人一つずつ、今後の課題についてご提起いただいて、まとめにしたいと思います。それでは坂本組合長、よろしいですか。
坂本:今回の洋上風力というのは、海を使ってやる事業であるわけなのですが、基本的には20年間動かしてという期間が決まっていて、その後は撤去するのが原則であるということになっているわけです。ただ、20年後、25年後、30年後というのは、私もいるかどうかわからないような未来の話です。私は漁業なので、漁業協調策でいきますけれども、漁業協調策がしっかりできて漁業者にとっても良かったねということができるような、そういう事業にしていってもらいたい。まさに事業者と漁業者が、同じ方向を向いて、この事業に取り組んでいくんだという気持ちを持っていけるような、そういう環境づくりをしていかなきゃいけないと思っています。そのときに、当然、20年後、30年後を見据えた次世代の漁業のあり方、それから次世代の漁業者、リーダーのつくり方というのも、これも私がやっていかなきゃいけないことだと思っております。
今の漁業界、非常に疲弊している、大変だと言っているだけじゃなくて、この洋上風力を一つのきっかけとして新しい漁業に取り組んでいく、明るい展望を開けるように、みんなでがんばっていきたいなというふうに思っています。
司会:中原顧問、いかがでしょうか。
中原:最後の一言ということですが、このリレーコラムの13回目に資源エネルギー庁の武藤さんが書かれています。実はその内容について、「わが意を得たり」と私は思ったわけです。どういうふうに書かれているかといいますと、基金への出捐については収益の一部を原資にした格好で、これ自体、合理性がある一方で、「お金で安易に漁業との共生が図れるとの誤解を事業者に与えかねない」、それから「漁業者に補償的な意味合いにも取られかねない」との指摘もあるから、「金額ベースだけでなく、どんな内容を求めるかなどもしっかりと協議できるような環境を整えてまいりたい」と書かれています。公開の資料で引用可能な形で、このようなコメントを資源エネルギー庁が出されるのは多分初めてだったんじゃないかと思います。非常にちゃんとした発言をしていただいたものと、僭越ながら評価しているところです。
実は、私は、基金に事業者がお金を出捐することが、形を変えた旧来型の漁業補償に陥りかねないという心配をしております。つまり、発電事業者にとっては、一生懸命、漁業協調努力をしても「最後は基金にお金を出せば、それで片付くんでしょ」と思われかねず、発電事業者側からの漁業協調努力をそいでしまう方向に作用してしまうのではないかということ。他方、漁業者にとってはウィンドファームをどうやって活用して漁業の活性化を図るかはあまり考えずに、とにかくお金がもらえればいい、という格好になってしまって、漁業者側のウィンドファームの活用努力の意欲をそいでしまいかねないという心配をしております。このことを各地でお話しさせてきていたところなのです。私は、この点がきちんと進められていくことを大いに期待しているということで、結びに代えたいと思います44。
司会:茂木部長、いかがでしょうか。
茂木:まず、最初の入札が終わったので、これをきちんと形にすること。入札が終わっただけですので、ここから本当の事業が始まりますから、現場でいろんな調整を、またこれからやっていかなきゃいけませんけれども、これを着実に進めて、次のノウハウにきちんとつなげていく。これは経済産業省だけではなくて、関係省庁も、それから自治体の方も、事業者、漁業者も、皆さんにとっての知見になると思いますので、これをロールモデル的にしっかり仕上げることがまず一つです。
それから、今後、再生エネルギー、特に洋上風力を増やしていかなきゃいけませんので、今の仕組みの延長線上に、浮体も含めた区域の拡充、案件形成をやっていかなきゃいけない。そのために必要な制度整備は何が要るのか、あるいは技術、産業育成、何が必要なのか。これはすでに動き出しているものもありますけれども、これが次の課題ということになっていくかと思います。
司会:矢花部長、いかがでしょうか。
矢花:先行的なモデルが実際に動いていますから、これがしっかり進んでいくということ、今お話に出てきたような法定協議会がきちんと機能して、その中で事業者がしっかり漁業者と向き合って、そこに自治体、行政も絡んでいく。こういう制度設計をしたからということではなくて、やはりそれがきちんと魂の入ったものになっているかということを関係者が実感できるようにすること、そこが非常に大事だと。
われわれの言い方でいくと、良い事例を横展開をしていくということになるのですけれども、そのあたりをどう実行していくのか。水産庁として、実際にこの案件に関わる中で、しっかり漁業者の懸念を払拭することが実行されていく、そういう仕組みなんだということを広く周知していくことが必要だと改めて感じております。
司会:長谷理事、いかがでしょうか。
長谷:特にきょうはこの座談会に茂木部長に出てきていただいて、資源エネルギー庁としても、今後とも漁業協調でしっかりと取り組んでいくというご発言を聞いて、本当に心強くお聞きしました。今後もそういうことで、ぜひお願いしたいと思います。
沖合展開の話もできたらと思っていたのですけれども、沖合に行けば行くほど、利害関係者が広域化し増えてきて、難しい点があるなということは感じているところです。
「野心的な目標」が閣議決定されておりますので、当然、それを踏まえてということになるのですが、であるからこそ、「急がば回れ」という言葉がありますけれども、一つひとつ目の前の案件を丁寧にやっていくことが、結果的に目標に近づく近道ではないかということを最後に申し上げたいと思います。ありがとうございました45。
司会:東京だけの議論だけでなくて、東京と都道府県の水産部局との関係などもしっかり議論できるような時間が確保できればよかったと思います。都道府県の水産部局、エネルギー部局がしっかり連携をしながら、取り組んでいくというのが、まさに再エネ海域利用法第5条の県の責務であるというふうに思います。
本日は、コラム連載を通じて浮かび上がった課題の対応策など、幅広く議論いただき、大変有意義な座談会になったと思います。今年の干支は、「壬寅(みずのえとら)」ということで、厳しい冬を越えて芽吹き始める、新しい動きが大いに伸びるという意味を持っているようでございます。
今回の水産コラムやきょうの座談会を通じて、洋上風力発電と漁業協調、地域振興の今後の取り組みの後押しになればよいと思って司会を務めさせていただきました。拙い司会でしたが、本日は長時間にわたり座談会にご参加いただき、ありがとうございました。
事務局:司会進行役の梶脇様、ご参加メンバーの皆様、長時間のご討議をいただき、お疲れ様でした。これにて終了とさせていただきます。
(左から梶脇、長谷、茂木、坂本、矢花、中原の各氏)
- 44:中原裕幸(2022):「再エネ海域利用法」と漁業協調について,沿岸域学会誌,第34巻,第4号,東京,日本沿岸域学会,pp.44-47.
- 45:長谷成人(2022):洋上風力発電における漁業影響と協調について,沿岸域学会誌,第34巻,第4号,東京,日本沿岸域学会,pp.48-54.