水産振興ONLINE
629
2021年10月

座談会 平成の漁業制度改革

司会矢花 渉史 氏
長谷 成人 氏/山口 英彰 氏/藤田 仁司 氏/横山 健太郎 氏/森 健 氏/赤塚 祐史朗 氏/萱嶋 富彦 氏/
永田 祥久 氏/清水 浩太郎 氏/加悦 幸二 氏/中村 真弥 氏/木村 聡史 氏/藤田 晋吾 氏/塩見 泰央 氏/
冨澤 輝樹 氏/牧野 誠人 氏/西尾 暁 氏

座談会 平成の漁業制度改革(2日目)(つづき)

漁業法(つづき)

第2章 水産資源の保存及び管理

矢花:どうしても時間的にも逐条ではできないものですから、主だった条文の規定の趣旨や条文の狙いを伝えておくべきところに焦点を当てていければと思っています。一番重たいところで第2章です。「資源の保存及び管理」のところで、第7条から2章に入っていくことになります。2章のポイントになります基本原則や定義、この辺りから口火を切っていただければと思います。長谷理事、お願いします。

長谷:最初に、前回にTAC対象を漁獲量ベースで6割から8割へという方針は何だったのだろうという話が出ていましたけれども、TAC管理に軸足を移す方針の中で、現状ではどの程度の魚種まで見れば8割になるかといった試算を、確か神谷さんが用意した資料だと思いますが、議論していました。それで目標として掲げるならこのようなところということで決めた記憶があります。

何かにつけて数値目標を求められるご時世ですけれども、そういう意味では数字自体に特別な意味があるわけではないです。今年は資源管理ロードマップに沿ってTAC対象種拡大の議論が本格化しますけれども、数字ありきではなくて現場への適合性などについて丁寧に検討を行ってもらいたいということを最初に言わせていただいて、それで資源の保存管理のところで12条(資源管理の目標等)のMSYの話を少しさせてください。

MSYは欧米の漁業事情から生まれた理論で、国連海洋法条約の中にも明記されています。TAC法を制定したときも、実は私は、国内法でばか正直に条約から引用しなくてもいいではないかと主張したほうでした。実際にTAC法の施行後も、研究サイドではABC算定ルールの中で、MSYは「現実にはその存在自体あるいはその状態が特定できるか疑問である」として、「適切と考えられる管理規則による資源管理を継続することで得られる漁獲量」として運用されてきた実態があるわけです。そういうことから、資源管理推進室長時代に東京水産振興会の水産振興の冊子(第447号「水産資源管理の基本理念について」)を書かせてもらったときに、当時の私は「MSYは押入へ、それも奥のほうへ」と書いた経緯があります。新潟市へ改正法の説明会に行ったのですが、地元ということで高鳥副大臣も同席されていましたけれども、この本を読んでいた県庁の人から「長官は昔そう書いておられましたが」と質問をされた記憶があります。

今回の12条では、古典的なMSYということではなく、その時点その時点での自然的条件の下でというように定義付けもしてもらいましたし、コンピューターを駆使してさまざまな推定も可能になってきたという研究サイドの説明もあったと記憶しています。さらには、現状での国際的なコンセンサスである今はやりのSDGsでもMSYが掲げられている最近の状況等々がありますし、今後、資源管理を進めていく上で周辺国との交渉はとても難しいけれども、そういう中で欧米諸国との連携が必要という情勢判断があって、今のような形になったと私は思っています。MSY理論の適否については、研究者間でいまだに議論が継続していますが、学問としての議論はどんどんして頂きたいと思います。要は、コンピューターがいくら進化しても、海の中の資源を推定することには限界があることに違いがないと思いますので、今後の話としてはくれぐれも教条主義的な、あるいは原理主義的な運用にならないようにしてもらいたいと思っています。

その前提の上で、当然限界はあるけれどもそれぞれの段階で最善の科学的データに基づいて適切な目標を設定することが大切だし、より大切だと思うことは、実際のTACに直結する目標を何年掛けてどのように実現していくかということを、水産政策審議会に諮問する前段階で、行政官、研究者、漁業者、加工業者等々のオープンな場で徹底して議論することだと思っています。

藤田(仁)部長がまさに担当で大変なエネルギーを必要とすることですけれども、ぜひ頑張ってもらいたいと思っています。

矢花:赤塚さんは何かありますか。

赤塚:原理主義的な運用にならないようにとの長谷理事の意見に同意します。法律は原則を定めたものであり、その中でどうやって柔軟な運用を考えていくのかが大事だと思っています。「水産政策の改革について」(上巻巻末参考資料1)では国際的にみて遜色のない科学的・効果的な評価方法及び管理方法とするとありますけれども、米国の事例を紹介するとデータ不足でMSYを直接推定することが難しい場合には利用可能な情報に基づき算出したものをMSYの代替値として用いています。条文には代替値とは書いていないからと原理主義的に無理やりMSYを直接推定しようとすると、使えるデータや理論上の限界がありますから、その無理が管理のところに必要以上の負担を生じさせることにならないかを懸念します。繰り返しになりますが、法律に定められた原則をどのように柔軟に運用していくのかを諸外国の事例も参考にしつつ考えていくことが大事です。

あと、資源評価について一言申し上げたいと思います。資源評価の結果、すなわち、漁獲圧力や資源水準の情報は、現状を認識し、目標達成の道筋を検討するための客観的指標として非常に重要であるということは様々な場で発信されてきたところです。漁獲圧力については資源水準と比べてあまりスポットライトが当たっていませんが、その水産資源に対する今の漁獲の状況が「獲り過ぎ」の状態であるか否かを判断するための非常に重要な情報です。漁獲の状況が「獲り過ぎ」の状態であれば現時点の資源水準は問題なくても持続的利用の確保は実現できなくなることから、これを是正し、防止するための措置を講じる必要があります。その意味においても資源評価は重要だということをこの機会に強調させて頂ければと思います。

矢花:ありがとうございます。法制的にもあまり前例がないというか、いろいろご苦労があったと思いますが、萱嶋さんにお願いします。

萱嶋:今おっしゃっていただいた法制的にも前例がないという意味が、ここの部分は特に如実顕著だと思っています。先ほど第1章の説明の時に、あくまで広い意味での漁業調整を実現するための一部としての資源管理なのだという話を強調しましたが、逆に法律を作る観点からいうと、第2章を書き下ろすこと自体が新しい法律を1本作るレベルの作業でした。法律を作ったという意味においては、第2章の部分が一番苦労したのではないかと認識しているので、言及しておきたいと思います。

それでやはり第2章の構造を理解してもらうためには、すごく愚直な言い方ではありますが、第8条(資源管理の基本原則)をとにかくしっかりと第1項から第5項まで読むことに尽きるのだと思います。あくまでこの章立てというのは、ここに書いてある第8条の1項から5項の理屈の原理、文字どおりでいうと資源管理の基本原則に則って書き下ろしているから、ここに立ち戻って議論するということが一番大事だろうと思います。逆に言うと、この流れに沿って見ていけば、基本的にこの章の説明は尽きる話なので、ここのところをもう一回おさらいすることが大事ではないかと思います。だからこれを基本原則とする法律が、この第2章だけで1本出来上がっているという感覚で読んでいただけると大変いいかなというところです。もちろん内容面については、「水産政策の改革の方向性」が出て、詳しい方々にご議論していただいたので、私どもはその内容をしっかり法律にしていくことが大事です。これはたこ部屋の中でもとにかく条文化に苦労した分野です。本当にここは新法制定並みの努力をしたと思っているので、しつこいですが、ぜひこの第8条の意義をみんなで共有するとともに、今後も活用していただければいいなと思っています。

矢花:ありがとうございます。横山さんから手が挙がっていますので、お願いします。

横山:今の萱嶋君の意見に補足的な意味合いです。法律はたいていの場合、当時作った人たちの手を離れて何年も運用されていくと、だんだん一つ一つの個別の制度のみについてどう運用するかというのに固執してしまって、全体としての思想やどういう考え方で法律全体を運用していくというのが薄れてしまう可能性があります。

われわれ水産庁の職員が、行政官として共通の認識として持っているべき思想を法律にしっかり書くべきと、一番主張していたのが当時の次官だったところもあります。先ほど萱嶋君が言ったとおり、この法律をどう運用していくかという思想をここに書き込むことこそがこの法改正の意義であり、重要なところだというのがありますので、まさにここがこの法律の肝であると思っています。かつ、この流れで本当にやっていけるのかという運用面の課題も含めて、一番議論になったところではないかと思います。ですので、法律に規定されたこの考え方を踏まえて、どう現実的に落としこんでいけるのかについて、法律の考え方を後世に伝えながら議論していくことが極めて重要ではないかと思っています。

矢花:ありがとうございます。条文的にはこの第8条が第2章の肝ということで、これを具体化していく仕組みを書き下ろしていくというお話かと思います。

山口:そういう点で、8条の1項から5項の話を誰かに解説してもらったらいいのではないですか。萱嶋君がいいと思いますが、一項ずつ、みんなで意見なり感想なりを言うのがいいかと思います。

矢花:ありがとうございます。では萱嶋さん、お願いします。

萱嶋:ここに書いてある内容自体は、ここにいらっしゃる皆さまと外の方々との議論でできていることなので私が偉そうに言う話ではないですが、条文という観点からある程度私も関わったということで申し上げていきたいと思います。それでまずポイントとなるのが第1項です。ここに書いてあることは、資源管理はこの章に書いてあることだけをやればいいわけではないということに尽きます。先ほども言ったように、資源管理と漁業調整を切り離すことが実際にできるわけはなくて、あくまで全体として見なければいけないから、資源管理はまずこの第2章に書いてあることをやるのが基本ということです。併せて、その他必要な措置を第3章から第5章までの規定に基づいてしっかりやって、逆に言うとそれをやってこその資源管理だということが書いてあることはとにかく特筆に値します。それは先ほど言った、広い意味での漁業調整の一部なのだというのが、書いたほうの人間として思っているところだとはっきり申し上げたいと思います。

その上で、第2項以下はこの章で書いてあることは何かということですが、この章にある「管理を行う」というのは、まず漁獲可能量による管理の部分があって、そこは区分というものを作ります。これは系群や地域ごとにするなど、いろいろな管理方法を念頭に置いて、それを管理区分と呼んでいます。元々の思想としては、単一種を複数系群に分けるということもあったし、議論の途中では複数種を1つの形でまとめた区分として管理することも念頭にありました。実際にどう運用されるかはいろいろあると思いますが、それでまず管理区分を作って、都道府県や大臣許可漁業の種類ごとの配分をやっていくことを考えて、それぞれの管理区分ごとの管理をしていくというのを書いたものが第2項です。ここは細かく分けていくという発想が書いてあります。

第3項のところで、具体的に今言った管理区分で漁獲量の管理をします。ちなみに管理区分に分けると言いましたけれども、逆に論理的に分けないで全部まとめて1つの管理区分とすることも、法律上ではできるわけです。いずれにせよ、それぞれの管理区分でどうやって漁獲量を管理するかというのが3項に書いてあります。これもまさに激論があったところで、「漁獲割当てにより行うことを基本とする」と、いわゆる個別割当てをしていくと書いてあります。ただ、これはあくまで「基本とする」と書いてあるので、まずそれができるかを検討いただきたいと書いてあるわけですが、結果として絶対にやらなければいけないものではないです。そこは実態をしっかり踏まえつつ、広い意味での漁業調整上のところを踏まえて、それぞれの管理区分ごとにご検討いただきたいという趣旨で書かれたものであります。

第4項ですが、今言った漁獲割当てが基本とは書いてあるけれども、基本であっても検討した結果、準備が整っていないことがあることも前提に書いていて、他の方法で、「当該管理区分において水産資源を採捕する者による漁獲量の総量を管理することにより行うものとする」と、つまり全部が3項でできるわけもないということを踏まえつつ、4項によってしっかりと押さえていく形になっています。

さらに第5項のところで、今言った4項の場合において実態を勘案して、この総量の管理が適当ではないという場合には、それ以外の方法として元々あった漁獲努力量の管理のやり方もできるという書き方をしています。それによって、それぞれの段階や状況に応じた形で管理もするし、2項から5項までの流れがありましたけれども、こういったことで全て万能なわけではなくて、第1項でそれ以外の漁業調整に関するいろいろな措置を、併せて講じていくことが大事だと受けているということがこの8条の意図だったと私は考えています。

矢花:ありがとうございます。赤塚さんの手が挙がっています。

赤塚:私からも質問したいと思います。

先ほど第8条は資源管理の基本原則であり、全てはそこに書いてあるという意見が出ましたが、私も同じ意見です。他方、その視点から第8条を見ていると、どうして資源管理の目標という資源管理の基礎となる用語が「基本原則」を定めたこの条項の中には出てこないのだろうという素朴な疑問が浮かんできます。検討過程では条文案に「資源管理の目標」又はそれに類する用語が入っていたと記憶しています。資源管理の枠組における目標の位置付けや重要性は自明ですし、第8条の書き振りのみを以って語るべきものではないことは理解していますが、最終的にあの形となった経緯や整理の考え方について当時のことを記憶されている方がいましたら教えて頂きたいと思います。

矢花:結構この辺は議論もありまして、では藤田晋吾さんにお願いします。

藤田(晋):資源管理に関する赤塚さんの指摘について整理します。

前提として、関係する条文の規定順序を振り返りますと、①定義規定(7条)、②資源管理の基本原則(8条)、③資源管理基本方針(11条)、④資源管理の目標等(12条)となっています。

検討過程の条文の変遷を振り返ってみましたところ、8条にはシンプルに漁獲可能量による管理を行うことを基本とする旨が規定されており、資源管理の目標に関することは、11条及び12条で規定されています。つまり、「資源管理の目標」という言葉は8条には規定されていませんでした。

他方、8条より前に置かれる定義規定については、特に「漁獲可能量」の定義をどのように書くかが論点となり、赤塚さんがおっしゃるように、「最大持続生産量」、「資源評価」、「資源量の水準」といった用語を用いて「漁獲可能量」を定義する案で進んでいました。ただ、法制局審査の過程で、「漁獲可能量」の定義はシンプルに書くべきという指摘があり、これを受けて、現在の条文のような姿になったという経過をたどりました。

矢花:ありがとうございます。8条の原則の骨格自体はあまり変わらなかったと思いますが、他のところでそれを具体的にどう書き下ろすかというところはあったと思います。今回の法律全体を通じて、原則が何かというのを明らかにして、原則と例外のボリュームがどちらが大きいと思うかでだいぶ印象が違うのですが、少なくとも目指すところ、原則をしっかり書くということでそこは貫いた書き方になっていると思います。長官、お願いします。

山口:条文としてどういう経緯をたどったかはあまり詳しくなかったですが、この考え方を決める前提や過程を考えると、条文化する前の、「水産政策の改革について」を作るときにかなり議論をしたと思います。神谷部長や資源管理部の人たちが、いろいろな紙を出しながら議論していて、TAC8割の議論もその時に出ていたということは記憶しています。8割というところがベースになるから、改革についての横紙(上巻巻末参考資料1)の中でも資源管理は数量管理が基本だと書くことになって、結構詳しく書かれたのですが、それを条文に落とすときに、法制局の意向もあって整理されたのではないかと思います。

その中で、ちょっとびっくりするのは、3項のところで漁獲割当てを基本とするという規定になっていることです。これまで数量管理はTAC法で行っていたので、頑張ってTACまでもってこようという思想がありました。けれどもIQを基本とするとなると、現状からもかなり先に進む必要があるのですが、そういうふうに捉えられる条文を作るに当たって、みんなはあまり違和感はなかったですか。

長谷理事が一番違和感があったかもしれませんけれども、この規定が実際に入った当時の私の感想は、結構大胆だなという受け止めをしていました。

矢花:長谷理事、お願いします。

長谷:IQの議論は、IQにすれば全ての問題が解決するかのように言う人がいたものだから、それは違うと思っていました。条文になる段階でも、基本や原則をどう考えるかということだと思うし、大きな方向性として、漁船漁業がそちらの方向に行くことを示すということであればいいのではないかと思った記憶があります。

山口:漁業法の条文の構成を見ると、IQに関する規定が最初に出てきて、まさにIQが基本という法律になっています。これは、漁船漁業、特に大臣許可漁業については、確かに準備が整うなどいろいろ条件は付けているけれども、整えばIQにするという考え方は水産技官の間ではあまり抵抗感のない考え方だったということでいいですか。

赤塚:藤田部長、お願いします。

藤田(仁):私はその時はどちらかというと、どんどん入れられるとは思っていなかったです。けれども一方で、IQを真っ向から否定するのもどうかという考え方を持っていて、だからやれるところからやればいいと思っていました。ただ、私はそう思っていましたけれども、水産庁内でそれが共通認識かというと、人によって相当違っていたと思います。船の大きさの規定のあり方について、IQを導入したからどこまでできるのだという思いは、人によって相当違ったというところが非常に端的に折衝で表れたのではないかと思っています。

矢花:ありがとうございます。森審議官のお手が挙がっていますのでお願いします。

森:私も先ほどの山口長官のご発言のとおり、第8条3項のIQ原則と、4項は例外ということの関係が明記されている第8条は、ある意味思い切った条文だなと思っています。「水産政策の改革について」(上巻巻末参考資料1)を見ると、「漁業許可の対象漁業については、TAC対象とした魚種の全てについて準備が整ったものから順次IQを導入する」と書いてあるのに、法律を見るとIQが原則で、それ以外のものは例外という法律になっています。「水産政策の改革について」を超えているのではないかという批判や議論は当時あまりなかったという記憶がありますが、そこはそこで話を聞いていると、ある意味矢花さんが言っていたような、法律である以上は原則をしっかり書くべきだという、事務官としての法律に対する思いと、水産技官の皆さんの中でも、将来的にここは許可漁業に限らず、資源管理のやり方としてIQに進まざるを得ないという政策的判断というのが融合して、8条のようなある意味奇跡的な条文が出来上がったのかなという気がします。非常に印象的でした。

矢花:ありがとうございます。山口長官、お願いします。

山口:当時の議論の中で思い出したのは、4項があるので全部IQにしなくていいとか、沿岸漁業はIQにしなくていいんだという雰囲気が庁内にもあったと思いますし、団体の人たちもそういうふうに考えていたと思います。ただ、法律を作った我々よりも後の世代になって文言解釈として4項を読むと、準備が整っていない管理区分は、準備という言葉もくせ者ですが、要は、準備が整うことが前提で書いてあると解釈できるわけです。魚種の特性によってIQ導入が不可能なものがあるかもしれませんが、事実行為としての準備を進めていけば将来はIQが可能になるのだというのが裏で読めるわけです。そういうことからすると、法律を作った当時は、各方面との折衝の中で例外や対象外となる場合があるという説明をしてきた覚えがあるのですが、後世になると、かなり厳しくIQ導入の進捗状況を問われるのではないかと思っています。

矢花:長谷理事、お願いします。

長谷:当然、IQはまずは大臣許可からやるわけです。やはり漁業情勢を見ていくと、漁業種類も単一魚種に対応するような漁業はなかなか厳しい時代になってきて、多魚種を目的にする、あるいは複数の漁法でやるという漁業に移行していかざるを得ないと思います。そういう中で、沖合漁業など企業的な漁業についてIQを追求していくということを、とにかく一生懸命にやるという状況が続くと思います。それさえも結構大変な話で、そこで七転八倒するかもしれないけれども、やる中で当然、常識的な判断が出てくると私は思っています。法律をこうやって作ったわけだから、その責任は当然あるわけだけれども、この条文が不変ということではないと思っています。

矢花:ありがとうございます。藤田晋吾さん。

藤田(晋):IQを基本に据えるという議論は、横紙(「水産政策の改革について」)を作りながら当時の水産庁内や官房との議論の中で、そういうトーンだったということだと思います。それがある意味、条文という形でストレートに表れたということだと思います。

矢花:ありがとうございます。

山口:今の長谷理事の話について、いいですか。

矢花:お願いします。

山口:長谷理事が長官の時からその話はずっと承っていまして、私も何でもかんでもいきなりIQにすると考えているわけではないです。ただ、今、理事もおっしゃったように、大臣許可漁業の中でも単一魚種を漁獲するものは、魚種が気候変動等によって変わってきたり、取れる場所が変わってきたりすると、どうしても今の漁法や漁業種類の規定でカバーできなくなってきます。他の魚種なり新しい漁法なり、また船の大きさも公海でも操業できるような船にしなければならないといった話が出てくると、資源を管理する手法は、船のトン数制限や漁法制限でやる時代ではなくなってくると思います。資源を共通項的に管理できるものは数量管理ですが、これについても船の大きさによって漁獲能力に差があるのは不公平があるといった話もあるので、究極的には船舶別の割当てという方向にいかざるを得ないと思います。こういったことを踏まえて、今回の資源管理ロードマップでも、大臣許可においては原則IQ管理に移行することを書かせていただいています。

政策というのは一定の期限を決めて実行していくべきものでありますので、ロードマップには目標年を明記していますが、今後はその進捗状況の検証が必要になってきます。水産庁としては、漁業者の皆さんが今後も持続的に漁業を続けられるための道しるべとしてロードマップを示したものであり、そういう中においてIQ化の話も進めていかなければならないと考えています。IQを入れれば全部うまくいくのだという極端な意見には与しませんが、漁業の将来を考えていくと、IQを導入していくという基本的な考え方でいいのではないかと思います。

ここで別の話をしたいと思います。資源管理基本方針の内容については、11条(資源管理基本方針)に規定がありますが、私は、条文に規定されている内容以外も基本方針に書けると思っていますし、書くべきだと考えています。水産資源ごとの漁業の状況、また資源の状況に応じて柔軟な対応が必要なものが出てくれば、基本方針の中に盛り込んでいけばよいし、TAC・IQの段階的な導入や準備が整っていないものへの対応の仕方についても基本方針で定めていけばいいと思っています。先ほど赤塚さんが言っていた資源管理目標の話も、法律上の目標は12条に規定したところですが、実際にどういった目標にするかは、資源管理基本方針の別紙という形で、特定水産資源ごとに1つ1つ決めていくことにしています。その個々の方針、目標自体はステークホルダー会合で決まることになるわけで、そこで漁業者の理解と協力が得られる管理措置を考えていくことが重要だと思っています。

矢花:ありがとうございます。長谷理事、お願いします。

長谷:別の話になりますが、この座談会の内容を都道府県の人たちにも読んでもらいたいと思っています。私がずっとこだわっていた県のTAC管理の地理的限界の話を横山さんにやってもらいましたよね。

矢花:横山さん、いいですか。

横山:これまでのTAC法の中では、各都道府県の管理の対象が管轄区域内と明確に規定されていましたが、改正漁業法の中では、その旨の記述を落としています。属人でも漁獲量を管理している実態がある中で、属地主義という基本的な概念は当然生き続けているものの、県が割り当てられた漁獲数量を遵守するために、管轄区域外の操業などに対し、採捕停止命令などを行いうるようにすることで、都道府県の管理の余地を広げるようにしたのが今回の法改正における隠れたポイントの1つだと思っています。その認識を共有することができれば、非常に意味がある改正だということを、都道府県も含めて共有していくことができるのではないかと考えています。法務省の調整において、県が管理しなければいけない数量について県の管轄区域外で操業しているものについて、それが県の数量にカウントされるものは一定の命令ないし制限をすることが可能なのかという点については、制度上可能だという見解も頂いているところです。管理可能な範囲が広がったということを対外的に明確化する意義は非常にあると思っています。

長谷:ありがとうございました。