座談会 平成の漁業制度改革(1日目) つづき
水産業協同組合法
矢花:そうしましたら、条文の狙いということで、今日は水協法からお願いしたいと思います。水協法の今回の法改正の中でポイントとなる条文などを取り上げていただいて、背景や苦労した点などを掘り下げていければと思っています。清水さんから口火を切ってもらっていいですか。
清水:では水協法ですけれども、非常に膨大な条文なのですが、ポイントはかなり絞られると思いますので、条文にならなかったものも含めて話をしていきます。
水協法改正は、販売力強化や所得増大の関係が中心となります。最初に所得増大への配慮の規定、それから役員への販売のプロの規定、それから監査の関係、それに絡めて連合会の業務規程、監査・指導の規定の見直し、それから内水面漁協の組合員資格の見直しという辺りがあるかと思っています。その他に条文にならなかったものとして、事業利用の強制の禁止に関する規定の取り扱いと、あと水産加工協の組合員数などについても少し触れたいと思っています。
最初は所得増大への配慮規定です。新しく第11条の2を作ったのですが、これは、漁協はその事業を実施するに当たっては、水産資源の持続的利用等に配慮しつつ、漁業所得の増大に配慮しなければならないという内容になっています。この条文は農協法(第7条第2項)がベースになっているのですが、農協法は農業所得の増大に最大限配慮するということとされています。これは似ているのですが、違いとしては、1つは水産資源の持続的利用等に配慮するということで、これは農業の方は頑張って生産すればどんどん売れていくのでいいのですが、水産の場合は資源管理には配慮しなければいけないので、そういう前提にしてあります。あと規定の位置が農協法とは違っていまして、農協法は今第7条というところに設けられていて、これは水協法で言うと第4条、組合はその行う事業によって組合員のために直接の奉仕をすることを目的とするという、事業目的の根幹的な規定のところに、農協法の場合はその事業実施に当たって農業所得の増大に配慮することとの規定が設けられています。これはやはり先ほども議論がありましたように、農協は農業者の期待に応えられていないということで、そもそもの事業目的規定のところにこういう所得増大への配慮というのを設けたのですけれども、水協法については第11条の2ということで、これは漁協の事業規定の後に、その事業を行うに当たっての配慮規定ということで置いています。これはテクニカル的には、水協法の第4条は、「組合」となっていて、これは漁協だけではなく加工業協同組合や生産組合も全部入ってしまっているので、ここに置こうとすると少し面倒というか置きにくいということはありましたが、もう一方では農協の事情とは違い、漁協は漁業者のための組織として頑張っているのだから、農協法とは違う位置にして、第11条の事業規定にくっつく形で書いていますし、当然資源管理との関わりというのは大前提になるので、資源管理と両立できる範囲内で所得向上に取り組む趣旨であるという説明をしました。
セットになるので、販売のプロの規定も説明しておきますと、販売のプロは第34条役員の規定の第11項に置いています。これも農協法では少し違っていまして、農協法の場合は役員の過半数を認定農業者あるいは販売のプロにしなければいけないという規定になっています。これは、農協については認定農業者、つまり担い手農業者が農協離れというか、系統外のほうに出荷したり、系統外から資材を買ったりする動きが出てきていたので、きちんとその認定農業者をはじめとした担い手の意向が経営に反映され、きちんと農家のための事業をやる必要があるということで、認定農業者が役員の過半数を占めるようにするということにした上で、農家所得の向上の観点から、販路拡大やブランド化等による付加価値向上に知見を有する販売のプロもカウントしていいという形になっていました。ですが、水協法の場合は、今言ったような農協に当たるような事情はないので、やはり漁協の場合は、漁協の事業の中心である販売事業が重要であり、漁業所得の増大を実現するためには、漁協がきちんと販売を頑張って組合員の利益にならなければいけないということで、先ほどの第11条の2とセットになる形で役員に販売のプロを入れることにしたものです。その際に、漁協の役員の3分の2以上は正組合員、つまり漁業者でないといけませんので、販売のプロだけで過半数というのはおかしいので、最低1人入れるということにしました。これは農協も漁協もそうですけれど、信用事業をやっている場合には信用事業担当の理事を1人置かなければならないという規定が設けられていますので、それを参考にしながら販売事業をやっている漁協については、販売のプロを1人置かなければいけないということとしました。農協法の場合は、販売のプロはどちらかというと内部登用よりも、系統の委託販売だけではなくて直接販売や買取販売などに取り組んでもらうため、外の人材を農協の役員として登用すべきというようなメッセージが大きかったのですが、水協法改正においても同様の懸念の声が出ていました。これについては内部登用も可能であり、販売事業に詳しく、産地市場などにずっと携わってきた、例えば漁協の参事さんなどが早い時期から役員に登用されるようにしていくことも可能ということで、そういう規定を設けたところです。
矢花:ありがとうございます。加悦さん、何かありますか。
加悦:条文がどうということではなくて、漁協の事業として販売事業をしっかりやるということについては、やはり命題中の命題であり、その結果農協法のほうでそういった販売のプロを外部から登用するというような改革が行われたものを、水協法といいますか漁協にそういった位置付けを明確に伝えるというか、位置付けるということができたのではないかと思います。清水課長からもありましたように、現場実態から言うと、実際に販売事業をやろうと言いながらも他の漁協に任せていたり、逆にもっと言うと広島など瀬戸内海の漁協はじか売りというか対面販売をやっていて、そういった漁協のそういう販売事業というものがしっかりできていないような漁協もあるので、やはりこの漁業法の改正や流通改革、そういった中でも、やはり漁協というのは漁業権管理ということと併せて、本来的にはやはり漁業者の所得を向上するためにしっかりと魚を売るということが法文上、明確になったのかなと思っています。
矢花:ありがとうございます。この件でどなたかご発言はありますか。
山口:この改正事項自体は、今課長や室長から話がありましたように、本来漁協の在り方として、漁業者のためにある協同組合の本来の在り方として、経済事業をきちんとやってもらうという趣旨であるので、法改正の意義はすごくあると思いますが、一方で漁協のほうの意識がそこまで上がっているのかというところは、残念ながらまだ十分でない気がします。全漁連自身も、この改革を受け止めて自分たちでこれを運動方針に入れてやっていくと宣言しておられますので、一層の奮闘を期待しているところです。
先般成立した水産流通適正化法でも、漁協又は漁業者が特定第一種水産動植物の譲渡の際に漁獲番号を販売先に伝達することを基本的な仕組みとしているのですが、販売事業の充実強化を図っていくことが鍵となりますし、とくに瀬戸内海の漁協での法律の実行をどのようにやっていくかということが、今後の課題となると思います。
水協法の改正はやったけど、実質が伴わなければ、困るのは漁業者ですから、指導監督していく我々も含めて、しっかり対応していく必要があると思います。以上、感想としてお話ししました。
矢花:ありがとうございます。清水課長、どうぞ。
清水:もう少し補足をしておきますと、規制改革推進会議などの場でも、販売事業については、これは農協とは違い、自分で産地市場を抱えているからには代金回収リスクも負っているということで、農協のように公設の産地市場に出す無条件委託販売とは違うということで、一定のリスクは負っていること、水産物の特性として腐りやすいとか鮮度の問題もあるので、そこは漁協として、販売事業というのは漁協の主要事業としてリスクも負いながらやっていることを説明してきました。ですが、やはり仲卸人も減ってきて、産地市場も来たものを売っている、買いたたかれるというような状況もあるので、さらに販路開拓、直接販売ですとか買取販売とかも含めて、付加価値を向上させていく必要があります。漁協系統に対しては、せっかくいろいろと鮮度向上とかをやっていても、なかなか中間マージンを取られて漁業者に落ちていないというのがありましたので、これを機にそういう通常の産地市場ルートだけではなくて、新しい販路開拓に取り組まなければいけません、そうしなければ生き残っていけないでしょう、ということもずっと説明はしてきました。水揚げも今は不漁で落ちているということで漁協の販売事業の手数料収入も減少し、漁協経営も厳しくなってきていますので、これをきちんとできる漁協が生き残って、できない所は合併していくという方向性が大事になるのではないでしょうか。「水産政策の改革について」でも、広域合併の文言も入りましたし、ストーリーとしてはこの所得増大への配慮と販売のプロの規定、これを強力に進めながら、きちんと体力のある漁協に広域合併していくというのが、この水産政策の改革についての狙いであるということであろうと理解しています。
矢花:ありがとうございます。
清水:次のテーマとしては、もう一つ大きいところは監査です。今回、公認会計士監査を入れるということになりましたが現在は全漁連が監査を行っています。全漁連の中に全国監査機構という監査の組織があり、全漁連が組織内の監査として、一定規模以上の信用事業を行う漁協等の財務諸表監査を行っています。ですが、先ほど申しましたとおり、先般の農協法改正で農協に公認会計士監査が入ることになりました。他の協同組織金融機関ももう全部公認会計士監査になっており、今や社会福祉法人やNPO法人も公認会計士監査が入るようになっていまして、今回の水協法改正の前では、こういう組織内での会計監査というのが残っているのはもう水協法だけになっていたということで、そういう中でもうこれは入れざるを得ないということで、これが先ほど申し上げたイコールフッティングの議論になります。水協法では第41条の2に会計検査人の設置について規定しました。この条文そのものについては、特に問題はなかったと思います。改正法附則第26条に配慮事項も定めましたけれども、これも農協法並びになっています。農協法のときも一番問題になったのは費用負担の問題になります。公認会計士監査になると、監査法人がやるわけですので、かなり監査料が高くなるということがいわれておりまして、農協のときもそれを国庫で補助すべきといった議論がありました。水協法の場合も費用負担の問題が問われることもありましたが、漁協の場合はほとんど信用事業は信漁連にもう移譲されていまして、監査を受けるのは大多数が信漁連になりますので、県1漁協や、北海道の単協の幾つかで、基準の貯金量200億円以上ですけれども、それを満たして監査対象になる組合について特に監査費用の負担がどうなるかというのが問題になりました。というのも、それは単協で負担能力が低いというだけではなくて、信漁連は信用事業しかやっていないのですが、単協の場合は経済事業から何から加工なども含めて幅広くやっています。監査を受ける場合には、信用事業だけではなくて全ての事業について監査を受けることになりますので、それだけ事業のバラエティーが多いと監査費用が高くなるということになりますので、単協になりますとよりその監査費用が高くなります。これについては予算も使って実際にコンサルを個々にやって、できるだけ監査費用を下げるべく今も取り組んでいるところです。ですので、これが実際に移行する段階でどういう問題が出てくるのかということで、まだ時間はかかると思いますけれども、そういう問題があります。あと、法改正して一体いつの決算から公認会計士監査を入れるかということが問題になりました。農協の場合は、3年6カ月間の移行期間というのが設けられていまして、水協法では附則第23条第1項で「施行日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日から適用」と規定し、政令で令和6年4月1日から適用することになりました。結果的には施行から3年4カ月ということで、農協より短い移行期間にはなったところです。
例えば山口県漁協のように今100近く支所があるような所は、支所ごとに業務の手順も違うので、非常に監査費用が高まるのではないかということで心配の声は確かにありましたので、それを局所局所に、私も県1漁協を回りながら話をして了解いただきました。でも例えば山形県漁協などは、もう200億円ないみなし特定組合なのですが、これはきちんと今の時代監査を受けなければいけないということで、今後も監査を受けたいというような前向きな反応もあったところです。
一方で信漁連は、実際の金融機関としては、今や農協の場合は1兆円の貯金があるような所も多いのですけれども、信漁連でも1,000億円ない所もありますので非常に小さいということで、彼らとしても公認会計士監査を受けていくに当たって、もっと体力強化していかなければいけないという思いはあったと思います。今年4月に信漁連の広域合併も行われますけれども、その広域合併の合意に当たって、これだけではありませんが、公認会計士監査が導入されるということも、1個1個の信漁連で監査費用を負担するよりも広域信漁連でまとめた監査を受けたほうが効率的ではないかという考え方も多分にあったのではないかと思っています。
矢花:すいません、ありがとうございます。森総括審、お願いします。
森:この規定の導入の説明をするに当たっては、附則の26条の実質的負担が増加することがないことと政府が適切な配慮をするということが附則に規定されたということ、併せてこれを説明することでかなり団体も安心していったというところはあるのだと思います。これは質問というか雑談になりますけれども、当時200億円以上の漁協が4つ、県1漁協で5つで、あとどこか、単位漁協でさらに加わるのではないかという話がありまして、そういった面でもこの負担が増加しないようにという規定がその後非常に重要視されるのだという話があったと思いますけれども、あれは結局その後実態上増えているのでしょうか。
清水:その後増えていまして、どこでしたか、網走ですか。加悦さん、分かりますか。
加悦:網走です。
清水:網走でしたね。あともう一つありました。確か網走が突破して、近いうちにもう一つくらい出てくるのではないかと記憶しています。今の漁業の状況では貸出しもなかなか厳しく、しかも低金利なので、信用事業の収益性は低下しています。また、貯金には当然コストがかかるので、貸出しが伸びない中で貯金を増やしていくというのも、非常にコストであり経営のリスクになるという視点も重要だと考えていますが、令和6年度から公認会計士監査が始まりますので、さらに対象漁協が幾つか増えることになるかもしれないと思っています。
矢花:ありがとうございます。この関係でどなたかご発言ありますか。あれば手を挙げていただきたいと思いますけれども、いいですか。そうしたら清水さん、もう1クールぐらいですか。
清水:そうです。連合会の所掌事務について第87条第1項の、改正後の第11項・第12項ですが、改正前は会員の監査及び指導という連合会の事務の規定がありました。今回公認会計士監査は導入するのですが、その後も引き続き全漁連は監査はやる予定です。監査といっても会計監査といわゆる業務監査という2種類の監査が実はありまして、会計監査は信用事業をやっている所だけなのですが、業務監査は信用事業をやっていない所も含めて全漁連・全漁協を対象にやっています。このため、いわゆる監査事業は今後も残るということになり、この監査及び指導という条文は本来は残っていていいかもしれないのですが、用語としては「監査」も「指導」も使わない新しい事業規定を置くことになりました。その背景としては、農協法の中央会制度の廃止がありまして、農協法では監査は全中がやっていて、指導も中央会でやっていたということで、この監査とか指導の権限が個々の農協を縛り付けていて、農協の自主的な事業展開を阻害していたのではないかという批判を受けて中央会制度というのは廃止になり、この中央会の指導監査の条文も農協法の本則からは消えたわけなのです。それが農協法のシンボル的な改正事項になっていましたので、水協法のほうもこうした農協の改正を踏まえた規定を設けることとなったものです。それを受けて、今の第11項・第12項という形で分けて規定をして、第11項のほうは会員の組織・事業・経営に関する調査・相談・助言ということ、これで今の監査や指導を読んでいくことになりました。第12項は会員の意見の代表及び会員相互間の総合調整ということで、これは新しくできるのですけれども、指導や監査というのはトップダウン的な、上部団体から下部団体を指導したり監査したりということなのですが、第12項のほうはボトムアップ的な、会員から出てくるいろいろな意見を取りまとめて国に要請をする、いわゆる漁政活動や、あるいは会員相互間の総合調整ということで、その辺はトップダウンだけではなくてボトムアップ的な規定も加えるということで新しい規定の見直しをしたということです。これは農協法においても、全中が廃止になり、これは農協法の場合は組織変更ということで一般社団法人の新しい全中ができるのですが、これについてはその第12項と同じような意見代表と総合調整で、県の中央会のほうは農協連合会に組織変更し、相談と意見代表、総合調整を行うこととされたことを参考にしたのですが、県の中央会は組織変更後も業務監査ができることに農協法の附則ではなっていまして、農協法の附則では実は「監査」という文言がありました。それで、水協法では「調査・相談・助言」ということで、「調査」と「助言」という農協法にない文言を入れて、何とか漁協系統の理解をいただきました。説明会とか全漁連の組織内討議のときには、今回監査制度が変わることを機に、現在のJFの系統の組織の在り方、その上で従来のようなトップダウン型の監査・指導だけではなくて、ボトムアップ型の、会員の意見集約や国との調整、国への提言などにも力を入れられており、そういう今のJFグループの活動実態も踏まえて、それに見合った形に見直すものです、と説明をしてきました。
それに対して、それほど大きな反対意見は、そういう説明会等の場ではなかったと思っていますけれども、漁連には、営漁指導とは別に、漁協に対する指導事業というものがありまして、これがその「監査及び指導」の「指導」の意味合いなのですが、やはり漁民の協同組織である漁協として、漁民の経営指導とかあるいは生活の向上とかも含めて、きちんと漁協ができるように連合会として指導していかなければいけない、教育などと一体的にそういうのをしっかりやらなければいけないという指導というのは重視されるべきであり、ここは何回も主だった漁連と議論をして、今ご説明したような経緯とか農協との関係なども申し上げながらご説明をして、ご納得をいただいたということです。
そのほか、第87条第9項に、これも先ほど申し上げました適正化事業、これは「水産政策の改革について」(巻末参考資料1)の中にも出てきた全漁連が行う漁協の漁場の適正化等に関する指導になります。これが元々出てきたのは、やはり料金徴収の適正化などを進めていくに当たって、全漁連がいわゆる監査権限も指導権限も持っている中で、きちんとその料金徴収の適正化も指導しなければいけないということで、そういう意味での適正化事業ということで設けたものです。ここは非常に法制局で書きぶりについて苦労しました。全漁連だけがなぜ、漁連の先ほどのような調査・相談・助言の事業はありますが、それとは別に全漁連が漁連を飛び越して、漁協の事業についても適正化の権限を持てるかという辺りで随分苦労しましたけれども、これについては漁業法で沿岸漁場管理制度もできまして、これについて漁協がやらなければいけないので、そういう中でこれをしっかりと適正化する必要があるということで、何とかまとめたところです。内容としては、漁場の利用や漁場の管理に関する業務の適正化ということで書いていますけれども、この中身としては、まずは沿岸漁場管理制度、これは乗る乗らないにかかわらず料金徴収の適正化をきちんと全漁連として指導していくということです。これは具体的には先ほど申し上げました業務監査、これは引き続き全漁連でもやっていくということになりますので、これについてきちんとその中でやっていくということです。あとは漁場の管理というのも入れましたので、漁業権管理についてもきちんと漁場を有効・適切に利用できるように、これも全漁連としてチェックしないといけないということを意味する条文として入れたところです。連合会の事業については取りあえず以上です。
矢花:ありがとうございました。今の漁協の連合会事業の関係ですけれども、これについて何かコメントありますか。
加悦:連合会の事業で、指導事業が落ちたということでやはり反発はありました。先ほど清水課長からありました北海道漁連や兵庫県漁連から反発がありましたが、やはり象徴的なのは、指導事業をしっかりやっている漁連の代表的な2漁連から、そういう面ではしっかりやっている自負というところから指導事業がなくなるのはおかしいと出てきたと思い、課長とも札幌から神戸に飛んで説明もしましたが、このような連合会の思いはやはりきちんと汲み上げていかなくてはいけないだろうという思いでそれが読めるような条文構成をお願いしました。
現在漁協の体制が非常に脆弱(ぜいじゃく)になっており、このような時連合会の役割というのは非常に大きいものでありしっかり指導事業を行っている連合会から声が上がったというのは象徴的だなと思います。やはり漁協を指導する漁連の実力というか意識といいますか、そういったものが透けて見えたのかと思います。少し条文とは離れたところですけれども、そういった感想です。
矢花:長谷理事、お願いします。
長谷:「水産政策の改革について」決定前の5月15日の政策会議の15回ワーキング・グループで金丸議長代理が、「基本的に漁業協同組合が地域において果たすべき機能は有してはいると思います。それをフェアに納得性のある形、あるいは合理的なプロセスで運営できるかどうかにかかっている」と発言されているのですが、全く同感です。料金徴収の話なども出てきたので話しますが、もう先ほど来繰り返し話していますけれども、漁協経営に必要なお金を経営規模に応じて負担するというのはおかしなことではなくて、その経営規模に応じてということを手っ取り早くということで、販売手数料や水揚げ手数料という名目で販売事業を利用しなくても徴収してきたという実態が結構ありますが、有路さんなどの指摘を待つまでもなく、今の時代に外部の人に理解できない漁協に対する不信感を生みかねない話だと思います。
実は今もうかる漁業の中央協議会の委員も仰せつかっていまして、11月に宮崎県の串間市漁協の黒瀬水産の案件で現地にも行ってきました。清水さんや加悦さんにも最近の状況を教えてもらってから行きましたけれども、昨年の総会で水揚げ手数料としていたような徴収はやめて、行使料としての整理ができたので、それは良かったなと思います。組合長によれば水産庁から県に出向している福井課長も頑張ってくれたようなのですが、こうした整理を本当にこの機会にぜひ一気に進めてもらいたいものだなと、水産庁に残っている現役の人は本当にご苦労さまですけれども、お願いしたいなということで発言させてもらいました。
矢花:森さん、清水さん、いいですか。
森:今のとも関連するのだと思いますが、先ほどの全漁連の助言内容の中にも含まれていますし、あと11条に、漁業法での沿岸漁場管理制度の事業をやるということが漁協の事業として法定化をされました。この沿岸漁場管理制度については、私的には、いろいろな徴収の透明化を図る、あるいは漁協がやっている漁場保全事業を県民・国民の社会的な理解を得てきちんと透明な形で進めていくという意義があるとともに、さらに今後外部から漁村に対していろいろな資金や人を受け入れていく上でも、この漁場管理制度というのはしっかりと漁協自身が積極的に活用することが必要なのではないかと、望ましいのではないかと思っています。
ただ一方で、これまでの議論の中では、ガイドラインも含めてもうこれは自主的にやっている漁協はこの制度によらなくていいという形で、あまり活用しないという形になってきてしまっていると思うのです。その辺り漁協の役割や機能、社会的役割や公益性というような観点で、この漁場管理制度というのについて、より漁協が活用すべきなのかどうか、そこは前担当課長として清水さんがどうお考えなのかと伺いたいと思います。
清水:ありがとうございます。実は今私も言おうと思っていたのですが、まず沿岸漁場管理制度は事業の規定にも入れました。実はこれが漁業法と水協法が束ね法案になった理由になりまして、私も水協法が別立てになるとえらいことになるなと思っていたのですが、漁業法の沿岸漁場管理制度を水協法第11条第1項第10号に漁協の事業として引用し、これで漁業法の改正とブリッジになりましたので、水協法も入ったということになりましたけれども、沿岸漁場管理制度はずっと長官室などでも何度も議論してきて、実は私はどちらかというとネガティブな立場でいろいろと申し上げてきたように思います。料金徴収の適正化は非常に大事だと思いますが、制度に乗せて知事の関与や透明性の確保など、これを法律に従ってやらされると、多分これはやれと言ってもなかなか漁協は付いてこないのではないかと思っていました。メリットも、「これでお墨付きが得られて堂々とお金を取れます」というだけではやろうという漁協というのはほとんどないだろうと思っていましたので、これはこういう制度を作ってもなかなか苦労するなと思い、少し最初のうちはネガティブに申し上げてはきました。やると決まった後も、やはりこれを法律に設けるということは、これをてこに料金徴収の適正化に取り組んでいくのです、というメッセージになっているので、これをいかに進めていくかというのは本当に大変なことだと思っていました。私が水産経営課に来る前、加悦さんが指導1班長のときに、企画課の当時の坂根法令係長が中心となり、調整課と経営課と企画課が一緒になって、全漁連は大森さんが中心になり現場回りなどもしながら、徐々に意識を高めていきながらガイドラインも作り、自主的に適正化をしていこうというような動きがありまして、その延長線上でソフトにこうやっていくのがいいのかなと私自身は思っていました。制度に乗るというようなことが目標になってしまうと、いきなりハードルといいますか持っていき方が難しくなるのではないかとはずっと思っていました。ですので、制度ができるからには法改正前のような、水産庁内あるいは全漁連と体制をしっかり組んで取り組んでいかなければいけないと思い、全漁連にもそのように言ってはきたのですが、私が在任中にはまだそういう機運は出てきませんでした。ガイドラインもできたのでそういう体制を取って、いかに沿岸漁場管理制度に乗ってもらい、それでガイドラインの考えをどう広げていくのかというのをしっかりやっていかないと、これは大きな課題なのではないかと、法改正前からの経緯を知っている人は今非常に少なくなっているので、そこは私も非常に心配をしているところです。
矢花:ありがとうございます。若干沿岸漁場の論点を扱いました。料金徴収の話も入っていますけれども。
清水:時間もないのであれですか、少し他の話もしておきますか。
矢花:今日できることは全部お願いします。
清水:では他にも話しておきたいことを、取りあえず残りの部分を言っておきたいと思います。内水面漁協の組合員資格の変更についてです。これは第18条第2項などになりますが、これまで内水面漁協の組合員資格については、これは海面とは違いまして、河川の場合は水産動植物の採捕又は養殖をする者となっており、「採捕」、つまり業としてやっていない遊漁者の方も組合員になれるということになっているのですが、それでもやはり内水面漁協は合併もなかなか難しいですし、どんどん規模が小さくなってきていて、実質的に法定の20人を満たすのが難しく存続も危うい漁協も増えてきているという中で、内水面漁業振興法もでき、しっかり内水面漁協の活性化をしていかなければいけないということです。これは長谷長官からも、内水面漁協のこともしっかりやれよというのも再三言われる中で、今回内水面漁協の組合員資格に採捕・養殖に加えて、増殖行為というのを加えたところです。これは産卵場の造成や、あるいはふ化放流の活動などに取り組んでいる人ということで、これは法制局的には内水面漁協というのは漁業法上第5種共同漁業権の漁業権者として増殖義務が掛かっているので、こういう第5種共同漁業権と絡む形で増殖行為というのが行われていまして、それを漁協としてやるからには増殖行為に主に携わっている方も組合員資格を与えて、これにより漁協の事業基盤・経営基盤を整えていく必要があるということで設けた規定になっています。これは内水面漁業振興法の付帯決議の中でも、この組合員資格について水協法上の措置も含めて検討することとされていまして、それも受けた改正になっています。実は、ここの部分で相当法制局で技術的に苦労しました。漁民とか漁業経営を行う者などという用語が、この組合員資格の条文にはいろいろと出てきていて、その辺がうまく整理できていない部分もありましたので、これを今回整理しました。これまでは、河川の場合だけ採捕者が組合員資格があり、いわゆる湖沼の場合は漁業経営者・漁民だけでしたが、ここを今回湖沼についても採捕者も組合員資格を与えることにして、さらに増殖行為をやっている方も加えたということで、湖沼でもかなり遊漁が盛んになっている所も当然ありますので、そういう所も含めて今回整理をして採捕者・増殖者が入るようにしたということです。ただし、湖沼でも本格的に漁業が行われていて、採捕者に入ってもらうと困るという所も当然ありますので、そういう所のためには漁業経営者に組合員資格を限定できるという規定も第18条に設けて、それですみ分けがきちんとできるようにそこを配慮して作ったところです。法制局での審査のときは、その概念整理に非常に時間を要したところです。
次に水産加工業協同組合の組合員資格についてですが、ここは今回実質改正はやらなかったのですが、加工協も今は非常に加工業者が少なくなってきていて、組合員資格として、組合員数15人というのが加工協の要件になっていて、15の加工業者がそろわない所は水協法の加工協になれないということで、現に一部中小企業等協同組合法上の事業協同組合になっている所も出てきていまして、15人というのを整理しなければいけないのではないかという課題がありました。これを減らした場合、これについては、加工協も信用事業ができることになっていまして、信用事業ができるからには組合の組織基盤をきちんと強化しなければいけないということで、15人はいてしっかりと出資金も得て基本財産を持って信用事業をやらなければいけないので、15人というのが下限だという整理でした。この15人を減らすとすると信用事業もやらないということにしなければいけないのではないか、しかし、そこは難しいだろうということで、信用事業も維持しながら15人を減らせないかという思いもありましたが、そこは従前のままの形で残ってしまったということです。なお、今加工協では一部貸し付け事業をやっている所は残っているのですが、信用事業というのは貯金をやっている所になりますので、貯金をやっている所はもう今は加工協はなくなっていますので、実際には信用事業の規定を落としてもいいのではないかという状況にはなっているということでありますし、当時山口次長からはデリバティブとかそういう超ハイレベルな信用事業の規定も加工協に適用されているので、このようなものはもう全部この際削除してはどうかというようなこともご提案されましたけれども、信用事業は残しておいてほしいという全水加工連の意向も踏まえて、加工協の組合員資格については改正しなかったということです。これはまた次のチャンスがあればチャレンジしていただきたいと思います。逆に、やはり加工も両輪ということで、水協法の1つの特色でもあるので、加工協制度は今後もしっかりとワークするようにしていくほうがいいと思いますので、ここは今後チャレンジしていただきたいと思っている部分になります。
あと最後に、一番議論がありました事業利用の強制の規定についてもお話ししておきたいと思います。これは農協法の第10条の2に、組合はその事業を行うに当たってその組合員に事業の利用を強制してはならないという規定が、農協法改正で新たに設けられました。これは何を意味するかといいますと、要は独禁法違反になるような不公正な取引方法、例えば系統外に出荷したらペナルティーを与えるなどをすると独禁法違反になるので、そういうことをしてはいけないということが農協法上定められたものです。これは背景としては、近年農協で独禁法違反に問われる所が出てきていたことを踏まえて設けられた規定です。これについては、独禁法違反してはいけないという当たり前の規定なので、これは私も設けなければいけないだろうと思って準備を進めていたところですけれども、漁協系統からは、農協のように公取から指摘を受けたこともないのでは不要ではないか、こういう規定が置かれると組合員が系統を使わなくてもいいのではないかと誤解をしてしまうというような声もありました。全国説明会などでも意見が出てきたため、事業利用の規制については設けないことになったものです。これに関連して解釈論でよく言われるのは、これはいわゆる組合運動としての全利用運動、つまり組合員に対しては全て系統を使ってもらうというようなことは、これは協同組合運動としては当然のことで、やるべきこととして認められていて、これを否定するものなのではないかというような質問もよく受けました。農協法についてもよく議論は出てきましたが、これは決して運動としてぜひ全利用しましょうというのは否定されるものではないと、一方で、全利用しないと何かペナルティーを与えるということになってきますと、これは独禁法違反になってくるので駄目なのです、ということになりますので、これは協同組合利用運動との関係でも矛盾するものではない規定であるということで農協法のときも説明していまして、この意味合いとしてはそういう当たり前の、独禁法違反をしてはいけないという規定として検討したということです。大体言いたいことは以上になります。
矢花:ありがとうございます。長谷理事と山口長官からお手が挙がっていたので、長谷理事からよろしいですか。
長谷:今回の改正も、どうしても海面漁業の視点からの見直しが当然主になってしまう中で、内水面漁協の組合員資格の見直しができたのは良かったと思っています。組合員の高齢化に減少、レジャーの多様化や川に遊びに行くなという学校の姿勢や、治水に重きを置いた河川行政などあり、内水面の荒廃に歯止めがかかっていないという認識を持っています。採捕の日数だけではなく、資源増殖活動の日数も組合員資格を判定するためにカウントすることで、内水面の在り方を真面目に考える若い人を取り込むことができればという発想なのです。関係者の要望を踏まえた改正ができて、良かったと思っています。
あと河川と湖沼で組合員資格を書き分けていましたけれども、多くの湖沼の漁業も河川並みになっているという認識に基づいて、この機会に書きぶりを同じにしたということです。
それから水協法から少し離れるので申し訳ないのですが、内水面関係はまとめて話したほうが後から読みやすいと思うので付け加えさせてもらいます。今回は時間的にもテーマの重さからもとても手が回らなかったのですが、第5種共同漁業権をどう扱っていくのかというのは大きな問題なので、後輩の皆さんにはこれからも考えていってほしいと思っています。
私に漁業法の手ほどきをしてくれた浜本幸生さんは、この第5種共同漁業権を金を取る権利と言っていたのですけれども、わが国の伝統に基づいた漁業権ではなくて、戦後の漁業制度改革で創設された制度なのです。元々戦後の漁業制度改革で国会提出時は海面扱いの湖沼を除いて、料金収入を国がプールして、政府が内水面の豊度に応じて水産動植物の増殖をする国営増殖という構想だったのですが、実際の担当機関として管理・増殖を現実的には地元漁協にやってもらおうとする案で、そのようなことならその漁協に漁業権を免許して管理・増殖してもらうほうがいいとなり、今の制度になっているわけです。ですが、共同漁業権の中に組み込まれたことで共同漁業権制度の仕組みが適用されるので、複雑な問題が生じやすいわけです。今回もそのような認識を持って、うまく運用していってほしいと思っています。根本のところは漁業を営む権利である漁業権制度をいわば借りる形のままでいいのかどうかという、大変大きく重い課題だと思います。今回他の漁業権と並びで報告義務も課されましたし、いずれはここに焦点が当たる場面も想定されると思います。その際には、漁業法から攻めるのが正攻法ではあるのですが、内水面漁業振興法というものがせっかくできていますから、そちらから攻めるというほうがむしろ現実的ではないかという思いもあり、この場で話しておきたいと思いました。
矢花:ありがとうございます。山口長官お願いします。
山口:今いろいろと清水さんに話してもらいまして、漁協改革は、漁協のためでもありますが、やはり漁業者の付託に応えていける組織になるために避けて通れないと思います。
漁業権管理を任されていることの重みと、あと経済事業主体として公正な立場で事業運営をやるという2つの大きな使命を持っているわけなので、それがまっとうにこなせるかどうかが問われるわけです。
先ほど長谷理事からも紹介がありましたが、例えば大田弘子議長(当時)など規制改革のメンバーからも、漁協のガバナンスや事業運営については注目されているところですので、これはわれわれ現役の問題ではありますが、今後も漁協指導をきちんとやっていかなければいけないと思っています。
長谷さんからお金を取る話がありましたので、それとの関連で思い出したことは、沿岸漁場管理の制度を漁協系統の人たちに説明したとき、いくつかの漁連から「この制度を使って遊漁からお金が取れますか」という質問がありました。私自身は規程の内容がしっかりすればとれるのではないかと思っていますが、水産庁の担当者からは、「遊漁と自由漁業の関係がなかなか整理できない中で、やると大変ですよ」という話もあり、現時点では、沿岸漁場管理の例示としては遊漁から金銭徴収ができるとは言ってはいないのですが、今後の流れとしては内水面のほうのお金の取り方とともに、海面においての漁業以外の漁協の収入の取り方の問題として考えていかないといけないのではないかと思います。
現在の漁協の状況は、新型コロナや不漁という問題もあり漁協の販売事業等が伸びていないという問題があり、その中でどのようにして漁協運営を持続させていくのかに焦点が当たっているところですが、国からの支援に頼るのも限界がありますので、漁業以外も含めて海面から収入を得る道というのを漁協の方で考えていくということが必要だと思っています。
新たなTACの制度の中でも、遊漁者のクロマグロ採捕をどのように制限していくかが直近の課題としてあるわけなので、そういったものも含めて、遊漁の問題を整理しながら漁協としての在り方、どのようにして収入を得ていくかというのも考えていかなければいけないと思います。農業で言う6次産業化とはちょっと違うので、「海業」と呼んでいますが、これによって漁協の収益を上げていくようなことも考えるべきだと思っています。
矢花:ありがとうございました。水協法の部分はこれで終わって、次回漁業法の目的のところからという感じで始めようかと思います。