漁業影響調査と意思決定の法的手続き
長谷:法定協議会の中で、影響調査もレビューしていくということだったと思うのですが、さっきの話で言ったように、事前の調査をして、最善のデータでまずは評価するということでしょうけれども、評価し切れない部分については、不測の影響が出てきてしまったときには、こういうことで担保されますよ、支援ができますよということを見せていかないと、なかなか漁業界内部としてゴーサインが出ないというか、「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれる」となかなか言えない状況になると思うのです。そういう意味で、基金のようなものがあって、その中で影響調査の一環としてのモニタリングもするし、影響が出てしまったときの支援策なんかも担保していくんだ、ということがセットになっていくのではないかなと。
漁業影響調査は、再エネ海域利用法の運用の中で事業者が行う仕組みになっていますけれども、漁業者との付き合いの中で感じるのは、風車を建てたい事業者がやる調査で「影響がありません」と結果が出てくるのではなくて、中立的な者の調査という方が漁業者は素直に受け取れるということがあると思うのですね。そこら辺のことについては、茂木部長はどうお考えですか。私は、事業者にさせるというよりも、そういう中立的なもの、例えば○○県振興基金といった財団なりを噛ませてやった方がいいのではないかなということなのですが、それも法定協議会の判断でやっていけばいいのですか。
茂木:まず、漁業影響調査は選定された発電事業者が行うということを、実は協議会の意見とりまとめの中でも決めていますし、再エネ海域利用法の基本方針34や公募制度の運用指針35の中でも、そう書いているんですね。そういう意味では、発電業者は漁業影響調査を必ずやらなければいけない。これをどう評価するかということはもちろんあると思います。自分たちが調査した結果はこうだから、これでいいよねという性格のものではなくて、まさに法定協議会の場で、こういう漁業影響が出ていると。どのくらいの期間、どれだけやればいいのかということについても専門的な知見が必要だと思いますので、これは水産庁にもご相談申し上げていますけれども、いろんな専門家の意見を踏まえながら、このぐらいの期間、このぐらいの調査をしっかりやっていかないといけないと。それを踏まえて、発電事業者、これは選定事業者ということになりますが、漁業影響の調査をやるということが、まず基本だと思っています。
その手前の段階で、漁業実態調査というのを本当はやらなきゃいけない。これはまさに事業者が決まっていない段階で、それぞれの事業者が思い思いに今、調査をやっているわけですが、セントラル方式でわれわれが目指しているものは、将来的には国がセントラル方式の調査をやるときに、そこの海域の魚種であるとか、漁法であるとか、そこでの漁業実態がどうなっているのかについて、可能な限り公平な形の調査をやって、これをお示ししながら、事業者が手を挙げていく一つの指針にもしていただきたいと思いますし、その段階でいろんな提案をしていくときの、漁業共生策を考えていくときの一つの指針になるようなものもつくっていけるようなクオリティのものにしていく必要があるかなと思っています。
オーダーについて、もちろんもっと公平な人が誰かやるべきだということですが、要するに選定事業者が自分の責任でやるということですから、これを自らやるのか、中立的な誰かに委託をして漁業影響調査をやるのか、これはやり方の問題だと思いますし、その評価をきちんと法定協議会の中でやっていければ、公平性はある程度、担保できるのかなと思っています。
長谷:事業者がやるというのが基本で、5つある法定協議会のとりまとめが、今までそうなっているというのはそうかと思うのですが、私が言いたいのは、実際の調査をするのは受託した調査会社であるとしても協議会のまとめ方として、事業者が行う調査ではなくて、最初から、事業者が出捐した○○振興基金のような別の機関を噛ますということで合意すれば、それはそれでありなのかなと思ったのです。これはあくまで、その方が漁業者の理解が得られやすいのではないかという観点でお話ししているのですが。
茂木:それでも構わないと思いますが、そうすると、問題は誰が責任を持って、その調査をやるのかということになりますよね。端的に言うと、調査のお金を誰が出すのかという問題になりますよね。
長谷:事業者が直接調査をするのではなくて、○○振興基金のようなものに出捐した中で○○振興基金が調査会社に委託して実施していくと。
茂木:どこまで申し上げるかというのは、それぞれで決めていただく必要があるのかもしれませんけれども、出捐金をどう使うかということと、漁業影響調査というのは、一応、今は分けているんですね。
長谷:今はね。
茂木:ええ。それは、出捐金は漁業影響調査に使うのではなくて、お金を出すのは発電事業者です。自分たちが工事をやって風車を建てていくわけですから、そこでどういう影響が出ているのか、モニタリングするための漁業影響調査をやる責任は、基本的に私どもは、発電事業者にあるという理解なのです。当然、これは環境影響調査と同じで、そこで出てきたもろもろの事象を踏まえて、どう対策を取っていくのか、あるいは影響をミニマイズしながら、よりよい方法、もっといい漁場にしていくために、どんな対策を打つのか、これは出捐金の中からお金を出しながら、皆さんと相談して、こういう対策を打っていきましょうということになると思います。これを出捐金の中に入れてしまうのか、外に出すのかというのは、ここは少し議論が必要になると思います。
司会:中原顧問は、この問題をどんなふうに感じますか。
中原:今のやりとりで私が思いましたのは、基本的には事業者が責任を持ってどんな影響があるかを調査して出すというのは、やはり前提だと思うのです。ただ、事業者が自らやるとしても、発電事業者は海洋のことや生物に詳しいわけじゃないですから、調査コンサル業者なりに委託をしてということになると思うのですが、仮にそういうふうにやったとしても、出てきたものが本当にちゃんとしたものかどうかというのは、第三者の評価が必要になってくると思います。それは、法定協議会とは相対的別個に独立した位置付けの仕組みがあればいいということだと思います。
漁業影響調査についてですが、茂木部長がおっしゃられたように、それに対してどういう対策を講じるか。言い方を変えれば、どのような地域共生策や漁業協調策を講じるかという対応策のあり方については、これもまた第三者、あるいは専門家、有識者の知見を生かしてということが、当然、必要になると思います。そこでの見解等を法定協議会の場に情報提供する、それで協議会の中でいろいろ議論をしていく、こういう仕組みなんだろうと思っています。
ところで、環境影響評価では、事前に行うだけと思われてしまいがちですけれども、事後調査も必ず行われます。影響調査であれ、それから対策を講じたものがどうであるかの調査であれ、20年間、30年間の事業実施期間という時間軸の中で、一定のインターバルで繰り返しPDCAとして、実施されていくということだと思います。私があちこちで講演や話題提供させていただくときにお示しするのは、この事業者の地域共生策や漁業協調策は、3年、5年たって見てみたら、なかなかいいじゃないかというものがあるかもしれないし、いや、最初はそのつもりでやったんだけれども、ちょっと見直した方がいいのではないか、ちょっと問題ですねというものが出てくる。それは有識者なり第三者なりの助言を得ながら、いいものはどういうふうに伸ばしていくか、思ったほどじゃなかったものというのは、どのように軌道修正したらいいのか、そういう議論がちゃんとできる、そのPDCAサイクルをきちんとやるということが肝心です。
繰り返しになりますけれども、その途中経過、中間評価については協議会にちゃんと情報提供していく、というような運用の仕方が重要であって、協議会には事業者も加わってやるというのは、そういう意味でも重要だということだと思います。基金の運用の話も透明性、公平性、公正性を担保しなきゃいけないと、意見とりまとめに全て書いてあります。それは当り前の話といえば当り前の話です。では具体的にどうするのかという議論が、実はまだそれぞれの法定協議会で出てきていないと言えます。基金の運用は具体的にはどうするのか、銀行口座を預かる事務局は漁協に置かれるのか、地方自治体に置かれるのか。そこでは毎年ちゃんと出捐金が入ってくるのを管理するのと、その使い道について、協議会の中でどのような場で意思決定がなされるのか、またそれが決定通りにちゃんと使われ、実施されているかどうか、どのように使われているかという意思決定と管理と監査の仕組みをきちんとつくることが不可欠だと思います。
それは当然、想定されているので、理念的に透明性、公平性、公正性という言葉が使われているのですが、その意思決定の場が、理事会という場なのかどうかわかりませんけれども、それはどういうメンバーで、どういうふうな意思決定の仕方にするのかと、そうした点について、これから多分、突っ込んだ議論をして、きちんとした運用体制が整備されていくだろうと想像しております。
司会:ありがとうございます。基金は3番目の議題でやろうと思っています。
漁業影響調査のお話、今、司会として聞いておりまして、漁業影響調査は誰がやるのかということ、お金は誰が出すのかということと、それから、やった結果が「なるほど」ということになるのか。事業実施主体、お金、結果について、それを不安に思う漁業者、漁業関係者が、「なるほど」と思うようなスキームになるのか、ならないのか。多分そこがポイントなんだろうなと。漁業者は、別に望んで洋上風力発電をやりたいということではなく、洋上風力発電事業者がやりたいといって持ってくるわけで、漁業影響調査は事業者のお金でやる、漁業者が手持ちでやる性質のものではありません。ただ、得られた結果が事業者のお手盛りではないかという懸念をどう払拭するかが大事なんだろうなと。その意味では、お金は事業者のお金であるんだけれども、漁業影響調査の主役は漁協、漁業者であり、こういうことが不安であり、こういう内容の調査をやってほしいということで主役であるべきなんじゃないかなと。私が現場に入ったときの漁業者との会話の中で出てきた話を思い出しながら、今の長谷理事と茂木部長のお話を聞いておりました。
ちょうど秋田県の八峰町と能代市沖の実務者会議の議事要旨36を読んだときに、「あれっ」と思ったことがありました。事業者がやる調査だから、一部を非公開にするという議論が確かあったのではないかと。これが起こると、途端に漁業関係者にとってみると、なぜ非公開なんだということになると思います。自分たちがやってほしい調査であるにも関わらず、事業者がやった調査なので全てが公開できない、というような趣旨のくだりが議事要旨にあったと思うのです。やはり主役が漁業者である限り、漁業者が調べてほしいという話に対しては、全て、その結果はオープンにしていくということがない限り、なかなか信頼ある漁業影響調査が行われないんじゃないかなという気が、議事要旨のやりとりを読んでいたしました。
いずれにしても、法律上の規定の中で、誰が漁業影響調査についての実施主体になるのかといったことは、これから一つの促進区域を検討していく中で、漁業影響調査の話が出たときのこれからの検討課題として、資源エネルギー庁、あるいは水産庁ともよく話し合いながらやっていただければ、現場の不安への対応になるんじゃないかなと思って聞いておりました。
あと、先ほど長谷理事から示された臨海開発の反省点の二つ目とも関係あるのですけれども、よく事業終了の後、洋上風力発電の施設はどうなるんだ、海に置き去りにされたままにならないのか、という懸念もあるようなのですが、銚子市沖ではどのような方向で整理がされたのでしょうか。
坂本:法定協議会の中で私どもの方から発言をさせてもらったのですが、設備は事業終了後に基本的には撤去なんですよね。ただ、25年後なのか、30年後なのかの話なので、その間に漁業共生策を取っていって、ある意味、そこに新たな漁場を創造できないかというようなことも、われわれとしてみると試みたいなと思っているわけなのです。
一つの考え方としては、今ある実証機が、ある程度の魚礁効果があるようだということから、例えば周りに魚礁を置いて蝟集効果が高まれば、そこに新たな漁場であるとか、または付着生物のようなものができて、漁業にプラスになるんじゃないか。ある意味プラス思考でやった場合には、決して海底面から全て撤去してもらう必要はなくなるかもしれないと。そこは数十年後の人たちが考えてもらうことであるわけなんだけれども、そのときに、うまくいっていて、なおかつ事業者とも、その間しっかりした考え方に基づいて、うまく共生していった、要するにそこは魚礁効果等があるという場合には、逆に海底面から撤去してもらうということはしなくてもいいと。それは事業終了の数年前から、そういうような話はしなければいけないわけですけれども、事業終了のときに決めることであって、基本的には撤去だけれども、そうでない場合もあるということを、協議会の場で発言をさせてもらいました。
何でそういう考え方になったのかというのは、さっき言った実証機というのがあって、ある程度、魚の蝟集効果があるんじゃないかということが見込まれてきています。さらに言えば、その周りに魚礁などを置いてしまった場合、逆に海底面から撤去する必要はなく、事業者と関係がうまくいっていなかったら、撤去してくれという話になるに決まっているわけなのです。でも数十年間、事業者と一緒に、そこで漁業共生策をとりながら事業をやっていって、最後にうまくいっていたという場合には、うまい解決方法を取っていってもいいんじゃないかということで、そういう発言をさせてもらったわけです。
やはり漁業共生というのは、数十年にわたってやっていかなきゃいけないことなので、われわれもそうなんだけれども、事業者にもそれだけの責任を負ってもらわなきゃいけないということから、最終的に撤去するのか、そうでないのかは、最後の場面までしっかり、事業者がわれわれとちゃんと向き合ってやっていってもらう、そういう証左になる、証拠になるわけなので、撤去、またはそうでない場合もあると。例えば海底面から数メートルのところで切ってもらってもいいというような考え方を、法定協議会の中で話をさせてもらいました。ですから多分、事業者の方は、何らかのお考えを持って、自分たちの事業計画の中にその辺のところを織り込んでいったものと思います。
司会:撤去ありきではない、これからの共生策の中でいろんな考え方がある、それを法定協議会の意見とりまとめの中に入れたということで、ほかの海域には見られない、銚子市沖のとりまとめではないかなと思っております。
海に置く話、それから撤去する話、海洋汚染防止法との関係もあって、環境省、あるいは国土交通省の所管になるかもしれません。きょうは環境省、国土交通省のご担当はおられませんので、再エネ海域利用法のご担当の茂木部長から何かコメントがあれば、お願いします。
茂木:重要なことは、責任関係をはっきりさせておくということだと思います。そういう意味では、事業が終了したときに、これを撤去する義務は発電事業者にある、選定事業者にあるんだということ、これは明確にさせておきたいと思います。その上で、もちろん各種法令にきちんと準拠した形での処理はしなければいけない。これも当然のことです。ただ、その中で今、組合長からもお話があったとおり、地元ときちんと擦り合わせができて、その効果を含めて、いろんな使い勝手があるということであれば、それを活かす方法がきちんと取れる柔軟性も必要かなと思っています。何かうまくいかなくなって、どうにもならなくなったときに、この撤去責任がはっきりしていないというのが制度としては最悪ですので、この費用も含めて、きちんと事業者にはその責務があるんだということは明確にしていますし、万が一、事業が終了して誰も望まれていないということであれば、きちんと必要な処理をして撤収するところまでが、この事業者の義務であることは、この制度上は明確に決めているということです。
司会:他社にやむなく事業を譲渡するような場合でも、これは担保されるということでよろしいのでしょうか。
茂木:はい。これは洋上風力だけではなくて、ほかの再エネでもみんなそうなのですが、事業が譲渡されれば、事業を譲り受けた事業者が、その責任をそのまま受け継ぐということは明確です。
司会:長谷理事は特に水産庁長官もやられていて、海の環境変化の中で自然災害と向き合ってきたというご退任までの期間ではなかったかと思っているのですが、自然災害の面で何かご懸念はございますか。
長谷:最近の気候変動で、50年に一度の災害、100年に一度の災害みたいなものが頻発してきていることとの関係で、過去のデータだけで判断し切れない部分があるから、そういうところについても、漁業者はやや不安に思うところがあるのではないかなというのはあります。
司会:確か夏ごろの報道だったと思いますが、銚子沖の洋上風力発電の施設について、50年に1回程度の強風にも耐えられるというようなNHKの報道を目にしておりましたが、坂本組合長は洋上風力発電施設の構造の安全性をめぐる漁業者の不安への対応について、何かお考えになっておられますか。
坂本:もちろん構造体がどういうものか、50年に一度の災害みたいなものにも耐えられるものなのかどうかというのは、われわれでは何も判断しようがないわけなので、では、どの辺のところで担保してもらえるのかということになったときには、われわれも漁協系統に損害補償をやっている団体がありますので、例えばそういう団体を絡めて、この洋上風力の保険関係というようなものをしっかりやっていってもらいたいなと、そういう要望も法定協議会の場では出させていただきました。やはりわれわれとしても、自分たちが常に見ていられる、あまり具体的でなくてあれなのですが、つまりわれわれが何か関係しているような保険の関係だとか、そういうものをやってもらえるのであれば、例えば何か問題があったときに、ちゃんとした対応を保険の関係でやってもらえるのではないかなと。こちらも保険会社とは、海の損害の関係で年中話をしているところですから、ある程度、そういうところを窓口にしてもらって、洋上風力に対する保険もやっていってもらえれば、最悪のことが起きたときの漁業者に対しての補償とか、または漁業者の不安は取り除けるんじゃないかなと思っています。
今の実証機、本体は大丈夫だったのですが、やはり太平洋側の波のうねり、波の力ってすごいらしくて、日本海側よりもずっと強いそうなのです。ですから、東京電力であってもケーブルが切断されてしまったというような事象もあって、そういうようなことがあると、それはわれわれの漁業とは関係ないのですが、要するに、まだそれぐらいのレベルというか、そういうものじゃないかなとも思うのです。洋上風力の実証機だったから、なかなかそこまでノントラブルでいけなかったというようなこともあるのかもしれないんだけれども、新たに建てられるものが全然何のトラブルもなく、20年も30年も稼働するものかどうかは実際わからないので、われわれは少なくともその辺のところはしっかりした保険関係をやってもらいたいと。保険だって、ちゃんとした対応をしてくれるようなところでないと、われわれとしても不安は持っているよということははっきり伝えてあります。
司会:青森県沖の日本海の方々で、再エネ海域利用法に基づく法定協議会が立ち上がったということ自体を心配するような向きもあるようです。最近、青森の方々と勉強会で接した中原顧問にお聞きしますが、漁業者はどんな心配をなさっていたのでしょうか。
中原:先ほども申し上げましたが、法定協議会ができてスタートしたら、もうウィンドファームができてしまうと理解している向きがあるということですが、そういうことではないというのは、法定協議会の構成員の一人としても、伝えるようにしているところではあるのです。同時に、青森の場合は、日本海側で南側と北側とに分かれておりまして、南側がスタートしていて、北側はまだスタートしていないということで、地元の漁業関係者からすれば、自分たちのところだけ先にスタートして、北側がまだスタートしていないのは非常に残念だと。若干の時間差があるとしても、早くスタートしてもらいたいなというのは、漁業者の中からも出ているんではないかなと私は理解をしております。
司会:長谷理事も、山形のセミナーで同じような話があったと聞きましたが、同じですか。
長谷:そうですね、同じです。11月に山形県庁に招かれて酒田市で漁業関係者向けにお話をしたのですが、法定協議会がいったんできたらもう止まらないのではという心配でした37。制度上そうではないとお話ししましたけれども、そうは言っても法定協議会を立ち上げる前に、基本方針にあるようにしっかり関係漁業者に確認するというプロセスを踏まないとボタンを掛け違ってこじれてしまいますよね。
司会:茂木部長から、法定協議会が始まったから、促進区域の指定ありきということではないというお話が何度かありましたが、それはそのとおりで、法定協議会で議論をしっかりしていくということでしょうか。
茂木:そうなのです、別に結論ありきということではありませんし、法律の促進区域指定が行われて、初めてそこで入札が始まるわけですけれども、いずれにせよ協議会の意見がとりまとめられない段階では、促進区域指定というのはできないんですね。そうすると、われわれができることは、やはりそこの関係者が入っていただいた協議会の中で、粘り強く議論させていただいて、どうやったら、ここで洋上風力発電を地域と共生しながらできるのかという解を導いていくということだと思っています。これが出て、導けない段階では、残念ながら、そのエリアでは促進区域の指定もできませんし、前に進むことはできないということなので、そこは皆さんと何が解決策なのかを、われわれも入って議論していきたいなと思います。
司会:長谷理事から、昭和の臨海開発行為をめぐって漁協の同意決定などの関係で内部の争いが多発した過去の反省があるということで、水産業協同組合法、漁業法の手続きを適切に行うというお話がありましたが、その点、少し詳しくお話しいただけますか。
長谷:法定協議会には、利害関係者の一人として、実態上は漁協の代表者あたりが出席するだろうと思いますが、漁協は会社とは組織が違います。あくまで漁業経営に影響を受ける可能性がある者は個々の漁業者であり、組合員です。この協議会に出席した、例えば漁協の組合長とか地域の漁業者等が、「漁業に支障を及ぼさないと見込んでいます」と発言するためには、十分な事前の検討、組織内部での丁寧な意思決定が必要です。
共同漁業権の漁場に、同意に基づき風車が建ち上れば、支柱で水面がなくなった部分だけは漁業権は自動的に滅失しますので、漁業法に基づく変更手続きは必要ないのですが、一方、再エネ海域利用法のプロセスの中で、風車を建てることによって漁場の価値が明らかに変わる事業に共同漁業権のような団体漁業権の漁業者としての漁協が同意するということであれば、その前に水産業協同組合法に基づく漁業権の変更の意思決定を組合員が行うための総会手続きが必要です38。それだけではなくて、許可漁業や自由漁業まで十分視野に入れて「漁業に支障を及ぼさないことを見込む」という確認が必要となってくるわけです。埋立地以外の地区の組合員による多数決で意思決定して争いとなったような昭和の対応を繰り返してはならないということです。
それから建設途中や建設後も、保守管理の観点で風車の周りで操業しないでほしいというようなことも出てくるでしょうが、あくまで漁業権を放棄しないことが重要だと思っていて、風車の周りの漁業権を一部放棄したりすれば、そこがかえって密漁の温床になる可能性がありますので、漁業法第106条の規定に基づいて漁業権行使規則を変更して操業を制限する手続きを踏むことで、逆に関係組合員の意思確認もできるので、そういう手続きをしっかり踏んでいくことが大事だと思っています。
司会:矢花部長、いかがでしょうか。
矢花:長谷理事がおっしゃられたとおりで、建設も含めた長期間にわたって「漁業に支障を及ぼさないこと」をしっかり担保していくという意味では、漁業権は放棄すべきではないというのは、そのとおりだと思います。しっかり漁業の継続を確保していくことが大事だということ。
もう一つ、意思決定に当たって、きちっと組合の中で手続きを取る。それは後々に大きな影響を与えることなので、そこは漁協としてもしっかりと合意形成を丁寧にやるということが非常に重要だと思っています。
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/kyougi/akita_happou/ji02_data02.pdf
2021年12月13日日刊水産経済新聞2面