水産振興ONLINE
634
2022年5月

座談会 洋上風力発電の動向が気になっている

銚子市漁業協同組合代表理事組合長(全国漁業協同組合連合会副会長) 坂本 雅信 氏
一般社団法人海洋産業研究・振興協会顧問 中原 裕幸 氏
資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部長 茂木 正 氏
水産庁漁港漁場整備部長 矢花 渉史 氏
一般財団法人東京水産振興会理事 長谷 成人 氏
司会 農林水産政策研究所上席主任研究官 梶脇 利彦 氏

再エネ海域利用法の運用面の課題

司会:昭和の臨海開発の反省点をどう生かしていくのか。この視点を持ちながら、二つ目の議論に入っていきたいと思います。

今回の各コラムでは、2018年に制定された再エネ海域利用法の話題が随所で取り上げられました。大規模な開発行為に対する漁業者の懸念・不安にどう応えていくかということで、再エネ海域利用法と漁業との共生について、茂木部長から改めてお話をいただければと思います。

茂木:これはもう皆さんご承知のとおりなのですが、再エネ海域利用法の中では漁業共生について明確に規定をしておりますし、法律の中では「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれること」というのは、促進区域を指定していく上での要件になっていますので、これをいかに実現していくのかということになります。

そういう意味で、先ほどもちょっと申し上げましたが、洋上風力発電と、その海域ですでに操業されている漁業関係者の方、それからすでにそこで様々な活動をされている方といかに共存・共栄していくのかを具体的に擦り合わせていくことが必要になってきます。それを擦り合わせていく場が、まさに法定協議会ということになります。この法定協議会、当然、漁業者の方にもご参画いただいて、漁業に支障を与えないことを確認した上で促進区域を指定していくということになるわけです。法律上の規定はそうなのですけれども、まず、どういう方が協議会の関係者に該当するのかを確定していかなければいけないことになります。これは地域の方とご相談をさせていただきながら、どういう方がこの関係者なのか、県、市、漁協の関係者の皆さんとご相談をしながら、漁業関係者も含めて「関係者」を特定して法定協議会を立ち上げます。その中で、様々な事象についても意見交換をさせていただきながら、意見をとりまとめていくことになります。当然、促進区域なり区域指定をするに当たって、異存があるという段階で区域指定をする、もちろん促進区域としての指定はしません。その手前の段階で様々な議論がある中で、前向きに検討していこうという段階で、いろんな関係者が入ってご議論いただくというのが協議会のポイントになります。

先ほどもちょっと長谷理事からもご紹介がありましたけれども、最後、誰か反対しているのに結論ありきで議論を進める、ということはわれわれは想定していませんので、その中できちんと協議会としての意見をとりまとめ、留意事項という形になっていますけれども、いわゆる協議会としての意思表示を明確に文章化することで、この事業をやっていく方は、これをしっかり尊重しながら事業を進めていくところまで擦り合わせをしていく、これを協議会の中でやらせていただくことが再エネ海域利用法のポイントになります。

再エネ海域利用法の協議会の機能というのは、選定事業者を決めるまでの事前のプロセスだけではなくて、事後のプロセスも非常に重要で、年末に決まった選定事業者というのは、今後、各地域の協議会の構成員になっていくことになります。それは今後、事業を進めていくに当たって、協議会と日々擦り合わせをしながら事業を進めるということでありまして、協議会の機能は、事前にこういう方向でやりましょうということを決めた後、今度は事業の実施過程においては、選定事業者も加わった形で、国も一緒に入って事業の実施状況をフォローしていきます。場合によっては、協調策、共生策も考えて、一緒につくり込んでいくことになってまいりますので、これがどう実現されていくのかを、皆さんで一緒にフォローアップしながら、それぞれが参加主体として責任を持って協議会を運用していくということになりますので、そういう意味で、協議会は事前のエリアを決めていく、そしてそれを実行して、しっかり皆さんでフォローアップしていく、そういう主体として位置付けられているということであります。したがって、ここで漁業共生も含めて実現をしていくというのがポイントかと思います。

司会:それでは坂本組合長にお膝元の銚子沖での洋上風力発電の検討過程において、再エネ海域利用法と漁業の共生について、どのような課題があったのかという点についてお話しいただければと思います。

坂本:まず銚子の場合には、実は再エネ海域利用法が法律として出来上る前から、名前を出していいのかどうかあれなのですが、東京電力がNEDOの補助金を使って洋上風力の実証機をつくって、その中で漁業者との様々な漁業共生についての協議を重ねながら、実証を続けていったということがあったわけです。

実証機があったために、われわれとしては、ある程度、洋上風力はどういうものであるのかを漁業者なりに理解をしたということと、そのときに漁業と共生するような施策というよりも、事業者と漁業者とで漁業と共生していくようなものができないだろうかということで、事業者と協議会をつくったと。そこで、例えば魚礁をつくってみたらどういうような効果があるだろうかとか、さらに経年変化がありましたので、要するに洋上風力の基礎部分が魚礁の効果を発揮するものであるのか、それとも逆に、海流とか、または流砂が起きてしまって、漁業に対して環境を変えてしまうようなことになるのかとか、そういうような様々な協議を続けてきたというのがベースにあるわけなのです。

そこに再エネ海域利用法という法律ができて、あそこの海域を、大きなウィンドファームをつくる検討はできるのですかというようなことを東京電力にも聞いたら、東京電力の方もそういうことは会社としては考えているんだけれどもということで、今度はその法律に乗っかった中で、その先の動き、方法論を事業者と、われわれのような漁業者が展開していったというようなことがあったわけです。その際に、われわれとして非常に懸念していた部分というのは、ただいま茂木部長から、再エネ海域利用法の法定協議会はこれから先も実際に活動していくんだよ、むしろその先の方が非常に重要になってくるんじゃないかというようなお話もいただいたのですが、そういう考え方というのは、われわれはあまり考えていなかったと言ってはあれなのですが、どちらかというと、法定協議会は促進区域を決めて、その中での漁業共生の部分をこちらが意見として出していく、そういうもんじゃないかなみたいに思っていた部分があったわけなのです。実際に事業者が決まって、事業者が構成員になって、その中で共生策のつくり込みをやっていく、そういうようなことが協議会の役目として持たされているんだということであれば、私どもとしては、それはいいことなんだろうと思います。

図4 図4
図4 洋上風力発電システム実証研究
(出典:東京電力リニューアブルパワー(株)HP)

この先、われわれが相対で事業者と漁業共生の話をしていくというようなことになった場合に、われわれ、知識だとかそういうものは不足している部分があるわけなので、やはりどこかのところで専門家、それから識者の方々に入ってもらって、いろいろ協議してもらわなきゃいけない部分はあるし、ある意味、非常にフェアな立場で話を進めていってもらうというのは必要なことなんだと思っているのです。ですから、しっかりした漁業共生をつくっていく、それはわれわれだけがつくる、またはわれわれだけが了解していればいい話ではなくて、ステークホルダーの人たちがみんな了解した中で話が進んでいく、漁業と地域、両方が共生、ともに進んでいく形ができていくということが、まさに洋上風力の開発においては一つのキーポイントになるんじゃないかなと思います。

ですから課題としては、確かに再エネ海域利用法がなくても、事業者と相対で話をして決めていっちゃうことは、できないわけではなかったし、可能であったわけなのですが、逆に再エネ海域利用法という法律にのっとってやることによって、事業者もしっかりした考え方を持っていないといけない、共生策なり何なりもしっかりつくり込んでいかなければ漁業者の理解が得られないし、われわれにしてみても、何だかわからない事業者が決定されてしまって、その後、あまり知らないような事業者と話し合いをしなければいけないとなると非常に不安なので、そういうところをしっかり法の中で組み込んでいってもらっているのは、安心できるポイントかなと思います。

司会:中原顧問は、再エネ海域利用法に基づき設置されている法定協議会の構成員も務めておられると承知しておりますが、感じている課題などについてお話しいただければと思います。

中原:今、梶脇さんから紹介されました構成員についてですが、経済産業省資源エネルギー庁と国土交通省の港湾局の合同会議がございまして、そこで、各促進区域関係、有望な区域関係がどういうふうになっているか、今後、公募占用指針をどうしたらいいかということを協議をする場ということで、10名で構成されておりまして、私はその末席を汚しているわけです24

そこは中央での協議会です。そのほかに、今お話が出てきている法定協議会というのは、各地域別に設置されている協議会です。「法定」というところが重要でして、再エネ海域利用法に基づいて設置されている、法律に基づいて定められている、それで「法定協議会」ということで、これが各地で動き始めています25。これに関連して、二つコメントしたいと思います。

一つは、再エネ海域利用法に基づく法定協議会ができる前段階で、あるいはそれを将来見据えて、各地方自治体で独自の協議会がいくつも各地で開催をされてきているということです。以前に梶脇さんと私と一緒に対応した山形県の場合もそうですし、ほかの地域でも多数あります。

環境省のゾーニング実証事業に伴って設置されている自治体の意見交換の場も「協議会」という名前でした。そういう格好で、法定協議会とは別に、すでに各地で協議会があります。場所によっては、勉強会や検討会という名前のところもあります。あちこちに協議会という名前があって、その当時、私は何に基づいている協議会か、協議会の前にそれが分かるような冠を付けてくれないと分かりにくいと思ったものです。そこで重要なのは、地方自治体が果たす役割がいかに大きいかということだと思います。

二つ目は、まさに茂木部長が指摘されたように、法定協議会で意見とりまとめをするというのは、促進区域の指定の前段階で、再エネ海域利用法の流れ図にあるフローでいうと、ピンクのところの前でして、ここの下に四つライトブルーのカコミ文があって、その一つに意見とりまとめがなされますよとなっているわけです。

図5
図5 「再エネ海域用法」運用の流れ

法定協議会が設置されたならば、それは事実上促進区域になり、洋上風力発電事業が行われることが既定事実になってしまう、もうそれで決まりなんだというふうに思い込まれている節がないわけではありません。それに意見とりまとめをしたら、法定協議会の役割は終わりと考えている向きもかなりあります。しかし、それはそうではなくて、法定協議会での意見とりまとめの後に、促進区域の指定があって、その後、公募占用指針が発表されて、事業者がそれに応じて公募占用計画を出して、それを審査して事業者が選定されて、その選定された事業者もまた協議会に入って、その後数十年間の事業実施期間中はずっと、その協議会できちんと協議を続けていくことになっているわけです26。そこの部分が、まさしく坂本組合長がおっしゃるように、意外と認識されてきてなかったりします。そこはきちんとPRもしなきゃいけないなと思いますし、関係団体や、アカデミアの世界ももうちょっと広く、その点を側面から認識を広めるような役割を果たす必要があると思っております。

法定協議会のメンバー構成については、できる限り、全ての関係者が一つのテーブルに着くに越したことはないのですが、とても大変なことになりかねず、難しい問題がないわけではない。そこはやはり一定の考え方に基づいて、こういう格好でこの協議会はつくりましたよ、こういうメンバー構成ですよ、と明示するのが望ましい。しかし、レギュラーメンバーしかそこに出られないわけではなく、それ以外の利害関係者も必要に応じて同席し、意見を発表するという仕組みが当然あるわけです。そんなことでいろいろな意見をできるだけすくい上げる仕組みを協議会の運用体制として担保していくことが大事で、協議会の事務局といいますか、運用主体側がそういう気配りをすることが重要と思います。そのときに、それぞれの当事者及び団体、アカデミアなども助言して、運用していくのが好ましいと言えます。

一つの例としては、梶脇さんもご存知ですし、リレーコラムでも山形県の例が出ておりましたけれども、ウィンドファームは海面にできるので、どうしても海面漁業者を中心にステークホルダーを考えるということになりますが、東北日本海側、太平洋側もそうですけれども内水面の川でサケの放流をする漁業者もいるわけです。これは海面漁業者のような漁業協同組合という組織体とは少し異なる団体があり、一応、河口周辺の海面漁業者と一定のやりとりは行われてきているわけなのですが、海に下った後のことについては直接の当事者ではないということで法定協議会の構成員になっていない例もあります。しかし、山形県ではやはり問題なんじゃないかということで、正式メンバーになっています。幸いなことに風車群が集魚効果を発揮して、地元の海面漁業者にはとてもいいことだけれども、集魚効果を発揮して魚がたくさん集まったおかげで、放流したサケの稚魚がたくさん食べられてしまいかねない、というようなことも心配しておられます。それでも何億尾と放流していて、川に戻ってくるのが数%というのが昔からの実情なので、それを考えれば、それほど心配することではないことかもしれないと言えます27。あとは大きくなって戻ってくる成長したサケを採捕するのは、定置網漁業者ということで、また別の事業者です。そういうこともあって、内水面の関係者も当然のことながら法定協議会のメンバーに入るのが自然だと思います。

漁業関係から離れるので、ここでは重要な問題ではないかもしれないのですけれども、やはり海上交通との関係で、海上保安庁の出先関係、それから海岸沿いには安全保障関係の防衛関係、米軍関係の施設などもあります。それによってレーダーの関係で風車群を設置するのは考慮してもらわなきゃいけない海域部分もあるといったこともあります。現在の法定協議会等では、そういった関係官公庁の方々もメンバーに入って、事業者や漁業者も含めて、こんな点を頭に入れた方がいいですよという発言をちゃんとしていただくという仕組みに今なってきています。その意味では、法定協議会の機能が円滑な格好で進められつつあるんじゃないかなと、私は良い方に感じております。

司会:今のお話の中にありました防衛省の話、あるいは促進区域が指定された後も法定協議会は継続して行われるんだよという話は、なかなか現場ではよく認知されていないと思います。私も、法律に始まり、政令、省令、基本方針28、ガイドライン29、運用指針30、公募占用指針31、そこらを一通り目を通し、かつ法定協議会の模様をYouTubeで拝見する中で、資源エネルギー庁の担当室長が「法定協議会というのは促進区域が指定され、そして事業者が決まってからでも継続する」と会議の中で発言されているのを拝見しております。さらに言うと、事業者が選定された後でも法定協議会は継続するというのは、確か促進区域指定のガイドライン、もしくは公募占用指針の中にも、その一文は入っていたと記憶しておりますが、法律から始まり公募占用指針に至るまで、たくさんの書き物があって、それが何十ページにもわたるもので、役所の人間であれば、読みこなすこともできますけれども、なかなか現場の人たちはそこまでは目が行き届かない面があると思います。いろんな海域の議論を展開していく中で、茂木部長のお話のようなこともどんどん広めていったらいいのかなと、この座談会も一つの機会だと思います。防衛省の話なども、再エネ海域利用法に基づき内閣で閣議決定した基本方針の中に、防衛の支障の考慮についても入っておりますので、そういった意味で、法定協議会にメンバーとして加わる場合があるということだろうと思いますが、なかなか現場の人たちは全てのことまでわからない部分もありますから、きょうの座談会の記録が皆さんへの周知に資するきっかけになればと思います。

再エネ海域利用法、約70年ぶりとなりました漁業法改正と同じ、先ほど長谷理事からお話がありましたように、2018年の臨時国会で制定されました。所管省庁は違えどどちらの法案も同じ臨時国会で審議され、可決・成立した、そこに何か不思議な縁、因果を感じますが、当時、水産庁長官であった長谷理事は、この二つの法律をどんな思いで見ておられましたか。また、先ほど昭和の臨海開発の反省で触れられましたが、「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれること」が再エネ海域利用法における促進区域の指定要件の一つとなっていますが、どうお感じになっておられますか。

長谷:漁業法を改正したとき、水産政策の改革の柱、6本の柱だったのですけれども、その中の1本に「養殖・沿岸漁業の発展に資する海面利用制度の見直し」という柱がありました。海面利用という意味で、洋上風力とも関係が深いなと思っておりました。

法改正の過程で、いろいろな意見があったのですが、漁業、漁協、漁業権といったものに対して厳しめの意見としては、本来、海や資源はみんなのものなのに、漁業者だけに特権的地位が与えられているのではないかとか、漁業活動の実態が明確ではないのではないか、というような批判がありました。これに対して改正漁業法では、漁業法の目的の中に、「漁業が国民に対して水産物を供給する使命を有し、かつ、漁業者の秩序ある生産活動がその使命の実現に不可欠である」という文言を入れたりもしましたが、一方で、漁業権などについて、漁場の活用状況などの報告義務を明確化したというようなこともあったのです。今後、洋上風力発電と漁業との調整が各地で図られるときに、この漁場の活用状況などの報告に基づく把握というのはとても大切なものになってくると思います32

そういうことはあるのですが、「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれる」と判断するのは本当に難しいことで、まして30年後までを見据えて、そういうことを「見込む」ということを、どういうふうに考えたらいいのか。そこで操業できなくなるということであれば、まだ分かりやすいかもしれませんが、個別の案件は数十本単位かもしれないけれども、「野心的な目標」の中で全体として千本単位の風車ができたときに、風車が建つ以外のところへの魚の回遊まで含めて、どんな影響があるのか。これは実は事前にとてもわかるような性格のものではないと思うんですね。そういう中で、でも「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれる」という判断をするに当たっては、中原さんから、レギュラーメンバーだけにこだわらずという話があって、広く利害関係者の話を聞くというそういう検討をしていったらいいなと思いますけれども、それにしてもというところがどうしても残る。そうではあるんだけれども、そうはいっても、その影響の有無を確認するための詳細な漁業実態調査が重要だと思いますし、それとともに風車建設の着手以前、それから建設中、建設後にわたる漁業影響調査をやっていくことが、漁業者の不安を払拭するのは難しくても、軽減する上で、とても大事になってくるだろうと思っているところです。

司会:矢花部長は、「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれる」という規定の要件の部分に関して、どんなふうに感じておられますか。

矢花:この法律の規定というのは、海域の先行利用者である漁業者に対する配慮をきちんと制度化するという、大変重要な要件だというふうに思っています。ただ、今お話ありましたように、それを具体的にどう担保するかというのはとても難しくて、それぞれの地域の漁場が違う、それから漁業のやり方、範囲の違いはその時期によって異なる、季節によっても異なる。そしてまた魚の回遊も非常に複雑だということもあって、もろもろの要素を考えると、とにかくこれはなかなか簡単なことではないんだなということを認識した上で、対応する必要があるんだろうなと思っています。

そういう意味で、自治体、水産を担う部局もそうですし、エネルギー担当部局もそうですけれども、自治体がしっかり対応する、事業者もしっかり対応する。それで漁業者と一緒に、漁業者が考える不安といったものに向き合っていくことが大切だと思いますし、そこで丁寧な議論をして、その要求を担保する方法を見出していくことが基本だと思っております。ですので、法定協議会といった枠組みをベースにして、しっかり事業者も自治体も漁業者と向き合っているんだと、そういう信頼関係をつくらないことには話が進まないというか、これだけ複雑な問題でも、しっかり正面から向き合い受け止めて対応していくのが信頼関係づくりには重要になると改めて思っております。

司会:「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれる」、この難しさ、30年先まで、誰がどのような手続きで、誰がといっても関係者、では関係者は誰なのか。そういった非常に難しいことが内在しているということでいうと、何も茂木部長だけに「どうですか」というのではなく、皆さん一緒に、水産庁も、そして関係者も考えていかなきゃいけないことだと思いますが、この点、再エネ海域利用法の所管省庁として、茂木部長はどのようにお考えになっているのか、お願いいたします。

茂木:今、矢花部長からお話があったとおり、技術的にも、起きている事象としても、すごく息も長い話ですし、難しい事象だということはわれわれも理解をしています。そういう意味で、単純に整理できる問題ではないというふうにわれわれもわかっているので、いろいろな形でこれを担保していくしかないなと思っています。

まず一つは、これは制度上の手続きという意味になりますが、協議会のとりまとめが行われますと、これを都道府県からの情報提供に基づいて、「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれること」を含む促進区域を指定していかないといけないのですけれども、この要件に該当するか否かというのは、そういう専門性を持っている方にご判断いただくプロセスをきちんと踏む、というのが一つです。これはもちろん水産庁に協議をさせていただく、それから関係省庁に協議をさせていただく、それから有識者で組織された委員会からご意見を頂戴する、それから都道府県、市町村にもご判断をいただいて、ここからも意見を頂戴する。それから広く公告・縦覧という形で、こういう形でやるけれども、どういう支障があるのかということについてのご意見も頂戴する。こういったプロセスを経ながら促進区域の指定をしていくというのが、まず一つです。

その上で、いよいよ促進区域が指定されることになるわけですが、そうなると、これが30年、この先、何十年かにわたって、その状態はどうやって担保されるんだという問題がもちろんあるわけですね。ある意味、この機能を果たしていくのが法定協議会ということになるのかと思います。先ほど言及があった漁業実態調査、これはできる限り事前にやっていくことになると思いますし、今、われわれは「セントラル方式」33という実証事業をやっていますが、この実証事業の中でも、どの程度のルートで、どのくらいのクオリティの調査をやると、漁業実態調査として機能するのか。おそらく、これは想定されている区域ごとにも実態調査のやり方も変わってくるでしょうし、この点はいくつか実証をやりながら、このぐらいのクオリティのものが必要だということが出てくれば、こういったこともきちんと担保して、その後は、この協議会の中で、漁業影響についてしっかりとモニタリングをしていくことが重要だと思っています。その意味で、先ほど申し上げた法定協議会の中に、いよいよ事業者が決まれば選定事業者にも入っていただいて、着工前、建設中、事業が執行される各過程において、何が起きているのか、どうなっているのかを関係者でしっかりとフォロー、ウォッチをしていく。その影響について、何らかの形で最小化していくのか、それに対応した何らかの対策を取るのか、こういったことも法定協議会の場で検討していくことがポイントかと思います。

そういう意味で、法定協議会に選定事業者が入って、もともと協議会で意見をとりまとめたことが実現されているのか、当然、その中には漁業影響についても入っていますので、漁業影響はどうなっているかを確認していく。こうしたプロセスをしっかりつくっておいて、この中で関係者の皆さんで意見の擦り合わせをやって対応を考えていく、ということかと思います。

司会:今、茂木部長のお話の中に、法定協議会の位置付け、大変重いものであるというふうに感じました。法律の規定上、置くことができるという任意の設置規定のように条文上は読めるわけですが、漁業者に実態、あるいは影響を確認していく上で、法定協議会は実質的には必ず置きながら、しっかり区域の指定、あるいは漁業への実態、影響、そういったことを議論していくんだろうなということでお話を伺いました。この点、何かご発言は。

  • 24:正式名称は、「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ」「交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会」合同会議
  • 25:中原氏が構成員を務める法定協議会は、現時点で青森県沖日本海(南側)、山形県遊佐町沖、長崎県西海市沖の3つ
  • 26:例えば、2019年11月25日、長崎県五島市沖における協議会(第2回)における協議会では、経済産業省から「事業者が決まったら、協議会に入ってもらい、事前調整も含め協議会の議論でやっていく。そのようなたてつけである。」との説明(議事要旨 p8)(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/kyougi/nagasaki_goto/02_point.pdf)また、事業者選定後の第3回会合(2022年2月21日)では、協議会運営規程の改正が行われ、協議会の構成員について、別表で、選定された事業者である五島フローティングウィンドファーム合同会社が追加され、正式にメンバーに就任(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/kyougi/nagasaki_goto/03_docs02.pdf
  • 27:元来、河口部では、風車群の有無に関係なく、例年降下してくるサケの稚魚を求めてスズキなどの大型魚や海鳥などが放流時期に合わせて集まってきて、放流稚魚が海水になれるために河口域でとどまっている時期にほとんどが食害に遭うとされる。
  • 28:巻末資料16 参照
  • 29: 巻末資料17、および、https://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/windpower/index.html(防衛省・自衛隊HP)参照
  • 30:巻末資料18 参照
  • 31:資源エネルギー庁HP洋上風力発電関連制度 「事業者の選定について」の部分参照
    https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/index.html#pub
  • 32:巻末資料19巻末資料20巻末資料21 参照
  • 33:風況・海底地盤等の洋上風力発電の基本設計に必要な項目のほか、環境影響評価のうち初期段階(配慮書・方法書)で事業者が共通して行う項目等について、政府・政府に準ずる特定の主体が事業者に代わり実施する方式。2021年度から始められた日本版セントラル方式の確立に向けた実証事業(経済産業省資源エネルギー庁及び国土交通省港湾局の委託事業「洋上風力発電の地域一体的開発に向けた調査研究事業」)においては漁業実態調査も行われている。