第3章
北海道の水産業・海上輸送・水産教育について
~北海道水産業・漁村のすがた2019~
1. 北海道の水産業
北海道(以下、「本道」。)は、日本海、太平洋、オホーツク海とそれぞれ特性の異なる3つの海に囲まれ、全国の12.5%にあたる4,448km(北方領土1,348kmを含む)の海岸線を有し、周辺海域の海底地形は起伏に富み、道東太平洋沖では黒潮から分かれて北上する暖流と栄養塩に富んだ寒流(親潮)が交錯して潮目がつくられるなど、総じて好漁場を有し、沿岸各地に漁業や水産加工業を中心とした水産都市や漁村が形成されています。近年、本道周辺海域における資源状況の変化によってサンマ、サケ、イカ、ホタテなどの漁業生産の低迷が続くとともに漁業就業者の減少・高齢化が進行し、このままでは本道水産業・漁村の安定的な維持・発展が危ぶまれています。
(1) 漁業経営体・魚種別生産の動向
本道の漁業経営体の数は減少傾向にあり、ここ10年で2割程度減少し、平成29年は、1.1万漁業経営体(全国の14%)で、全国生産量の19%、82.1万トンが水揚げされ、1経営体あたりの漁獲量は全国平均の約1.4倍で生産規模が大きいものとなっています〔図3-1〕。本道の主要魚種サケ、ホタテ、コンブで全体生産量の6割を占めていますが、平成29年サケ生産量5.5万トンは対前年比33%の大幅な減少、ホタテ生産量28.2万トンは台風被害や稚貝のへい死などにより前年から4.7%減少、コンブ生産量6.5万トンは対前年比8.5%減少、イカ2万トンは、昭和33年以降最低の前年をさらに下回り、サンマ37万トンは資源量の減少や漁場形成が遠方になる傾向などから、対前年比30%と大幅な減少となっています。
(2) 漁業就業者の動向
本道の漁業就業者の数は減少傾向にあり、平成29年2.7万人となっていますが、男子就業者に占める60歳以上の割合は、昭和50年代には15%前後でしたが、近年は35%前後になるなど、就業者の高齢化が続いています〔図3-2〕。
2. 北海道と本州を結ぶ海上輸送
本道と本州間の物流は、海上輸送、鉄道輸送、航空輸送が重要な役割を果たしていますが、本道は海に隔てられているため海上輸送の割合が高く、フェリー、RORO船等は、東北から関西を中心に全国各地と本道の港を結んでいます。平成28年度、本道からの移出貨物量26,277,235トンのうち、海運が20,670,457トン(78.7%)、移入貨物量32,712,569トンのうち海運が27,499,301トン(84.1%)を占め、本道において、海上輸送は、物流の大動脈として重要な役割を果たしています〔表3-1〕。
本道水産業や海上輸送が抱える喫緊の問題は、漁船漁業従事者や後継者、海上輸送を支える船舶職員の養成と魚食を普及せるための安全・安心な水産食品を提供することができる技術者を育てることにあると思います。
3. 本道の水産教育
本道で水産教育を学ぶことができる高等学校は海岸線に沿って13校(函館、戸井、恵山、南茅部、森、浦河、厚岸、網走、紋別、稚内、小樽、瀬棚、大成)設置されていましたが、平成17年度から小樽水産、函館水産、厚岸水産(現在の厚岸翔洋)高等学校の3水高に集約されています。
(1) 漁業就業者・後継者の育成
漁業就業者の高齢化の問題に対しては、3水高が国土交通省から小型船舶操縦士養成施設として指定され、高等学校卒業と同時に一級小型船舶操縦士の資格を取得し、漁船漁業従事者や後継者を育成していますが、漁獲量の激減や対価以上の労働を強いられる現状を踏まえ、子どもを後継者にさせたくないと考える保護者が多いことや、高等学校を卒業した生徒の親の年齢は働き盛りの40代で子どもを雇い入れる余裕がないのが現状です。
東京オリンピックの開催を見込んで民泊を経営する人が増えています。漁師や漁師の妻が調理師免許を取得し、ご当地の魚介類を朝食や夕食に直接提供する「漁師宿」を経営する、あるいは地元の海産物をセット販売している漁業協同組合等も多数あります。朝に水揚げされた魚介類の実物の大きさや重さ、性別などの説明(今が旬であるとか、こういう食べ方をすれば絶品ですなど)を加えてネットで配信し、購入したい魚介類に消費者が自分で値段を付け、煮つけ用、刺身用、焼き用、揚げ物用などに調理して、送料無料でその日のうちに宅配するなどの方法が考えられると思います。来る客は拒まずという考え方からコロナ禍の中で消費者が安くて新鮮なものを喜んで購入する方法を考えていかなければならないと思います。
(2) 船舶職員の育成
五級海技士(航海)は、小樽水産高等学校海洋漁業科漁業コース、函館水産高等学校海洋技術科海技コース、五級海技士(内燃機関)は函館水産高等学校機関工学科機関コース、三級海技士(航海)は小樽水産高等学校専攻科漁業科、三級海技士(内燃機関)は函館水産高等学校専攻科機関科が養成施設として認定され、海事従事者を育成しています。海技士養成施設では、本科で2ヶ月、専攻科で1年4ヶ月の乗船実習を行い、専攻科漁業科では、国際航海に従事する船舶航海士の必須資格第一級海上特殊無線技士や将来的に必要となる船舶衛生管理者の資格を取得しています。
18歳で卒業した生徒は3ヶ月間乗船し、1ヶ月の休暇というローテーションの船舶職員の給料面や休暇中自宅で1ヶ月間過ごせることに魅力を感じていますが、その生活リズムに慣れるには時間がかかり、自室で携帯を操作している姿が思い浮かばれます。限られた船内生活で有意義に過ごすためには何よりも乗組員とのコミュニケーションが求められると思います。船長を始め乗組員の方々も生徒の低年齢化・多様化を感じていると思いますが、繰り返し、繰り返し、何度も根気強く教えていただければ仕事も身についていくと思います。船舶職員を辞めて船を下りてきた卒業生は「仕事が嫌いなわけではないけれど、自室にこもることが多いので、おもしろくない」と答えます。船内の施設設備も充実・改善されています。船舶職員を考えている生徒に夏季・冬季休業中の船舶でのアルバイトや航海等の体験プログラムなどを用意し、参加を促すことも必要だと思います。
(3) 水産食品技術者の育成
全国46校の水産・海洋高等学校の34校(約74%)に水産食品系の学科が設置され、本道の水産高等学校においても伝統的な干物、缶詰等の実習が行われています。実習製品、特に缶詰の販売には長蛇の列ができるほど好評を博しています。東日本大震災などの災害時に家庭等で貯蔵できる食料として缶詰は見直されていると思いますが、少子高齢化や共働き世帯の増加などによって、食材を購入して家庭で調理する「内食」が減少し、また、コロナ禍の影響で外食産業の市場規模も減少するなど、日本の「食」市場が大きく変わり、「デリバリー」「テイクアウト」などの「中食」市場が成長しています。このことを踏まえ、簡単に調理できる半製品や冷凍品の開発、冷凍方法、その解凍法などについて学ぶことが必要だと思います。
共働き世帯の増加やコロナ禍によって外食ができないことから、簡易でおいしいレトルト食品や中食用の食品、簡単に調理できる半製品や冷凍食品について、地元産の魚介類を活用して高校生らしい工夫やアイデアなどの付加価値をつけた商品開発などを行っていかなければならないと思います。非常食用の缶詰は備蓄する必要がありますが、「中食」として中身の見える、ゴミ処理のしやすいレトルト食品や冷凍食品などを提供し、リピーターを増やし魚食の普及を図っていかなければならないと思います。
また、日本での「食品ロス」は、年間2,550万トンの食品廃棄物等が出されています。このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は612万トンです。日本人の1人当たりの食品ロス量は1年で約48kg、日本人1人当たりが毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てているのと同じ量になります。食品科で学んでいる生徒には、水産食品を含め食産業が直面している「中食」や「食品ロス」の課題解決に取り組むことができる学習を盛り込んでいく必要があると思います。
トピック③ 水産高等学校ならではの部活動と寮
小樽、函館水産高等学校には水産高等学校ならではの海を舞台にしたヨット部、河川や海でボート部、日本伝統の相撲部が活動しています。
また、バルセロナオリンピックのボート競技に出場した「木村 満氏」は函館水産高等学校ボート部の出身です。
全道や全国から生徒を受け入れるため、小樽水産高等学校には開設百年の歴史を誇る「白樺寮」、厚岸翔洋高等学校には「若潮寮」が設置されています。(函館水産高等学校の「北鳳寮」は、休寮中です。)
(4) 各学科の実習の様子
(5) 本道の水産高等学校卒業生の進路動向〔表3-2〕
平成31年3月本科卒業生323名のうち、4人に1人が進学(82名 25.4%)し、そのうち、水産・海洋関連への進学者32名中20名(62.5%)が専攻科課程へ進み、専攻科課程修了生の約70%が有資格海事従事者として船舶に乗船しています。
民間就職者194名のうち、水産・海洋関連への就職者は114名で、そのうち、水産製造・加工会社などの食品製造関係の中堅技術者として55名(48.2%)、船舶乗船者として19名(16.7%)となっています。また、官公庁の実習船や取締船などに9名、自営漁業に10名就職しています。
(6) 専攻科課程修了生の進路動向〔表3-3〕
本科から海技士の上級資格取得を目標に専攻科課程へ進学し、専攻科課程修了生24名のすべてが水産・海洋関連に就職しています。
トピック④ 令和元年度10月定期試験
函館水産高等学校専攻科機関科2学年紺野海次君が海技士国家試験制度の最上級の一級海技士(機関)の筆記試験に合格しました。