水産振興ONLINE
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2021年10月

座談会 平成の漁業制度改革

司会矢花 渉史 氏
長谷 成人 氏/山口 英彰 氏/藤田 仁司 氏/横山 健太郎 氏/森 健 氏/赤塚 祐史朗 氏/萱嶋 富彦 氏/
永田 祥久 氏/清水 浩太郎 氏/加悦 幸二 氏/中村 真弥 氏/木村 聡史 氏/藤田 晋吾 氏/塩見 泰央 氏/
冨澤 輝樹 氏/牧野 誠人 氏/西尾 暁 氏

座談会 平成の漁業制度改革(2日目)(つづき)

漁業法(つづき)

第8章 内水面漁業、第9章 雑則、第10章 罰則

矢花:残った論点としては罰則、特に密漁のところと、最後の罰則やその他のところも含めて、内水面もありますけれども、これだけは議論しておこうというところを共有していきたいと思います。萱嶋様、口火を切ってもらっていいですか。

萱嶋:ありがとうございます。残りの章で私が思っていた話をまず申し上げます。

7章(土地及び土地の定着物の使用)は取りあえずよろしいので、8章です。内水面漁業は、本当はいろいろ見直したいという話がいろいろな方面からあったものの、時間がなくてそれほど変えられなかったのは残念だった反面、いろいろな規定を準用しているというところで、特に木村君が大変苦労したと記憶しています。この辺りは一言言及があったほうがいいのではないかと思っています。

そして第9章も結構重要な条文で、他省庁との調整で横山君たちが大変だったというのがすごく印象に残っています。一見すると、ただ雑則が並んでいるだけに見えるので、隠れたエピソードがあれば、これは言っていただくとよろしいのではないかと。管轄の特例は先ほど出たのですが、他も実際のところはいろいろあったなと思います。

あとは罰則ですが、これは全体としての罰則の引き上げと、最初から出た密漁対策の部分があると思っています。罰則全体として引き上げるという、例えば漁業権侵害罪も引き上げできたのは良かったと思っていますし、もちろん対外的に一番目立った密漁の部分も、本当に今でも私が読んでいるインターネットでも言及が多いという印象なので、この話は1つ大きな論点としてあるのではないかと、取りあえずこれだけ提示いたします。

矢花:ありがとうございます。またお名前が出てきたところからいっていいですか。木村さん、どうでしょうか。

木村:海の制度は変わりますが、内水面は現行の制度をきちんと残しておけるようにというところに気を使いました。

例えば、沿岸漁場管理制度を準用しないことにしたり、委員の選任のやり方についても内水面漁場管理委員会でそのまま残るようにするなどを意識していたというところです。だから基本は変わらず、内水面漁場管理委員会の委員に増殖の人を入れられるようになったということぐらいです。

ほかには、内水面漁協の組合員の規定が変わるところで、「増殖する者」というのが組合員に入るのですけれども、それを単純に漁業権の適格性に入れると、団体漁業権の適格性の規定で地域内の採捕・増殖する者の3分の2という形になってしまい、増殖する者というのを補捉しきれるのかというと難しいのではないか。このため、漁業法では漁業権という性格もあるので従来どおり採捕のみとしました。これにより、水協法でいうところの内水面の漁協と、漁業法で免許を与えるところの漁協が、そこは法律の違いというか、漁業管理というところと経済団体の違いが出ている部分になったのですけれども、そこは意識して従来どおり残しておいたということです。

矢花:ありがとうございます。横山さんはありますか。

横山:それぞれ総務省ないし警察等の調整で気になったところは各条文でいろいろお話をさせていただいたので、今改めてということはないです。他省庁といろいろ調整したり、他省庁に限らず外部の方との調整の中でいろいろとするに当たって一番苦労したのは、今回あまりに膨大で、しかも外の人から見ると水産などは全く訳が分からない世界で、しかも普通に泳いでいる魚を量を決めてコントロールしてみんなで調整しようなど、外から見たらカオスに尽きるようなものを説明するまでがすごく大変だったというところです。そういった中で、牧野君にいろいろ協力いただいて、途中で参加した竹内君もいろいろ協力しながらやれたのが良かったかなと思っています。

あとは内水面漁業に関して言うと、海面については漁業法で資源管理的な数量管理と併せて漁業許可・漁業権や漁業調整委員会が一緒に規定されている中で、内水面は、別途内水面漁業振興法において、ウナギなどで数量管理や許可制度があるにもかかわらず、内水面の管理委員会のほうは漁業法に入っているということで、あべこべ感が若干残ってしまったのは個人的に心残りではありました。ちなみに内水面漁業に関して言うと、木村君にすごく頑張っていただいたのは皆さんもご存じのとおりですけれども、冨澤君も内水面漁業振興法の改正や諸々の調整の中で活躍いただきました。ぜひその辺についての思いと今後の意気込みを、冨澤君からお聞きできればいいなと思って私の話を終えたいと思います。

矢花:ありがとうございます。では冨澤さん、お願いします。

冨澤:内水面振興法は皆さんご存じのとおり、指定省令の準用規定が多々含まれています。指定省令との読み替えの表をまず作り、さらに今回の漁業法の、当初はハネ改正としての、付則での改正を経て本則改正になった経緯があったのをよく覚えています。

その関係で、まず指定省令との読み替え表を作って、さらに漁業法との改正の新旧表ということで、4欄の表の資料をよく作っていました。内水面振興法としては、最後の最後で本則改正になったこともあって、漁業法の改正に伴う改正を行う形になったと思っています。ウナギに関しては今でも資源管理に関する機運はあると思っているところです。

矢花:ありがとうございます。西尾さんに来ていただいているところで、何かご発言があれば頂いておきたいと思います。

西尾:私は罰則についてお伝えしておきたいと思っていました。主には西谷さんと中村真弥班長で、法務省との調整をやっていただいていました。最終的には、皆さんがご承知のとおり懲役3年で3,000万円以下の罰金ということになりました。これは、当時の密漁被害額のデータや外国人漁業による規制に関する法律の中で罰金が3,000万円となっていることを前例として提示して、調整した結果、政府内で認めてもらったものです。

矢花:ありがとうございます。罰則のところも出てきましたけれども、この辺りでいろいろ調整をされていたと思うのですが、長谷理事にお願いします。

長谷:罰則に関連してですが、過去、罰則の引き上げはしたことがあっても効果が限定的でした。それで密漁監視レーダーの整備について助成したり、いろいろ合わせ技で対策をしてきましたけれども、浜の高齢化や密漁組織の悪質化があって限界を感じていた中で、かなり思い切った額で姿勢を示せて良かったなと思っています。

例えば、ナマコについての密漁から輸出までの話を聞くにつれて、流通面や貿易面での規制の必要性を感じていたので、漁業法から離れてしまって悪いですけれども、今回成立した流通適正化法については非常に期待しています。

一方、せっかくなので言いますけれども、流通適正化法での海外のIUU漁業対策については、これは相手国も真面目に対応しないと機能しない制度なので、特にわが国EEZ内の無許可操業についてはEEZの境界が確定していない中で水域についての認識に差がある相手国からの適切な対応が期待できないので、運用の難しさがあるというのを感じているということです。

矢花:ありがとうございました。山口長官。

山口:ちょっと興味本位な話ですが、漁業権侵害罪は親告罪のままですよね。これを親告罪から外そうという話はなかったのですか。先ほどの密漁との関係で言っても、特定水産動植物の罰則を強化するのはいいのだけれども、漁業者同士の密漁や違反が多いから、かってに警察が捕まえるとなると大変なことになるということで意図的にそのままにしたのか、検討する時間がないからそのままにしたのかも含めて、教えてください。

矢花:萱嶋さんが、手が挙がっていますからお願いします。

萱嶋:私がメインでやっていたわけではないですが、こちらの認識としては現実問題として漁業権侵害受忍という発想が実務上にあって、形式的には漁業権侵害が該当しているけれども、事前に漁業権者と調整ができているので実際上問題がないという事象が世の中にあることを考えると、親告罪から外すということは、その辺との関係を考えて難しかったのではないかというのが私の認識です。

山口:分かりました。なるほどねということなのだけれども、これもちょっと脱線していく話ですけれども、漁業権侵害の受忍行為というのが現場で広く認められていることは事実のようですね。特定水産動植物の指定を今後どう増やしていくかという議論がでた時に、受忍で一部の採捕が認められている魚介類、例えばアサリやサザエなども統計を見るとナマコ・アワビより密漁が多いのですが、受忍との関係がなかなか整理しづらいと言われています。その辺は漁業権が付与されている漁協の判断でこれはいい、これは悪いと決めていけばよいという整理になったということで良いでしょうか。自分としても、今アイデアがあるわけではないけれども、漁協が受忍をする一方で金銭を取るということが認められていること、それが今回の沿岸漁場管理制度と関係なく今までどおり認めることにせざるを得ないことは理解しますが、その辺の法的な位置付け・整理というのはどこかの場面で問われるのではないかと思います。これは感想だけです。

矢花:ありがとうございます。萱嶋さんからまた手が挙がっていますのでお願いします。

萱嶋:今の話は非常に大きな論点だと思って、間違いなく今後議論になるところだと思います。先ほど休憩中に、牧野君から「天地返し」の話がありましたよねという話があったところですが、天地返しとは何のことか補足すると、今は原則、漁業は自由だけれども、規制が及んだ場合は禁止あるいは制限されるという法の立て付けになっています。そこを根本のところからひっくり返して、まず前提としての漁業あるいは水産動植物の採捕というものを禁止して、こういった場合なら例外的にやってもいいという構成にしたほうが資源管理のためにもいいのではないかというのが一時ありました。それは本当に理屈で突き詰めれば1つの考え方であるけれども、今出た受忍のようなことが現実にあるところを踏まえると、突然そういうふうに天地返しをするのは難しいということがあって、最終的にはそれはしないということになったと思っています。そういう意味において、今話題になった点は完全に問題が解決したわけではないので、今後また出てくるのではないかと思ったという話をコメントさせていただきます。

山口:今の話は、自由漁業というものをこれからどう考えていくかということにつながると思います。原則自由というのは、自由漁業という概念がある限りは、原則自由であることの証左なのだというところもあるし、一方で資源管理の進展を考えれば、国として水産資源を管理して、これを採捕することに対する責任と義務を持っている人たちだけが漁業をやるべきではないかという議論になってくると思うのです。

ですので、原則自由であるとか、無主物であるという我が国の法的整理のままでいると、無主物なら誰が獲ってもいいではないかという変な議論に巻き込まれてしまうので、今すぐではないですが、排他的経済水域の中にある水産資源は国土と同じように公共財的なものだと位置づけて、その中でどこまでが個人として採捕が認められるかという法律論というか、権利関係の構築を将来的に検討していく必要があると思っています。

矢花:ありがとうございます。森審議官から手が挙がっています。

森:先ほど1回終わった話であるけれども、174条の「運用上の配慮」という規定は皆さんの記憶にも大変残っているだろうと思います。この規定は目的規定とも連関して議論されていて、具体的には全漁連の要望ではあるものの、水産庁としても振興法ではない規制法である漁業法の中に、漁業者や漁業者団体の役割みたいなものを位置付けられるのかという議論でいろいろ頭を絞り、あるいは法制局にもいろいろ考えてもらったのだと確か記憶しています。結果的に、目的規定のところに漁業者の秩序ある生産活動という話を入れて、目的になかなか漁業者の役割を入れるのは難しいと。一方で、運用上の配慮のところで、1つは国境監視を「海上における不審な行動の抑止」という表現、これも見つけた上でさらに「漁業者及び漁業協同組合その他漁業者団体の漁業に関する活動」が健全に行われるように国、県が配慮するという、ある意味前例のない画期的な規定が置かれたということだと思います。この辺りは水産庁としても、漁業者の役割をどう書くかということをいろいろ苦労して知恵を絞った結果だと理解しています。恐らく法制局組は苦労されたと思います。

矢花:藤田さんは何かありますか。

藤田(晋):今、森審議官がおっしゃったとおり、この辺りの話は目的規定に書くのか、174条の中で書くのか、どの条文に書いてどこに配置するかという論点でした。やはり、目的規定は法律の全体構成をコンパクトにまとめて定めるものなので、後ろの条文で受けていないものは、目的規定の中には書けないという制約がどうしてもあります。そこで、目的規定の中には、漁業者の秩序ある行動というところだけを書いて、それ以外は174条で書き分けたということです。ただ、趣旨としては漁業者の思いの部分をここにきちんと受け止めたという意味で、大事な条文だったと思っています。

矢花:ありがとうございます。では長谷さん、お願いします。

長谷:この座談会の内容をまとめて公表することで改革についての理解が深まって、改革を後押しできればという狙いも持ってこの座談会をやったわけですけれども、座談の締めは山口さんからしてもらうと、きれいに収まると思いますが、どうですか。

山口:突然のご指名で、何も考えていませんでしたが、今回の座談会の場を作っていただいた東京水産振興会の皆さま、渥美会長、長谷理事ほか、皆さまのおかげでこういった場が持てましたことに感謝申し上げたいと思います。また矢花さんには、事務局として参加者との連絡役や日程調整もやっていただいて、いろいろな資料も送っていただいたり、かなりな時間を使っていただいたかと思います。ありがとうございました。

私は、今までいろいろな法律改正をやってきましたけれども、法律ができてしまうと、特にわれわれ事務官はすぐ異動させられて、なかなか改正の背景や思いの丈を発信する場がありませんから、こういった場を設定していただいたのは本当にありがたいと思っています。今回の会議にドイツやアメリカ、全国各地から会議に参加いただいていることは、Zoomという文明の利器ができたおかげでもありますが、立法作業を一緒に行った仲間が一堂に集まって会議が持てたということは、大変意義深いものと考えています。

今回、皆さんから集まった情報や皆さんのご意見をまとめた冊子等ができれば、私自身はまだ水産庁におりますので、これを全国の漁業者および都道府県も含めた各地の関係者の皆さんに読んでもらって、改正漁業法を制定した意図、またこれから期待する効果、皆さんに期待している役割等を発信していきたいと思っています。

今回参加していただいた皆さんは、本当に貴重な時間を割いていただきありがとうございました。われわれ水産庁に残されている職員は、皆さま方の思いを受けてさらに水産改革がきちんと遂行できるよう頑張っていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

矢花:どうもありがとうございました。お言葉を頂いて、これで締めということで、渥美会長はじめ水産振興会の皆さま、本当にありがとうございました。これで終わります。