水産振興ONLINE
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2021年2月

内水面3魚種(アユ、渓流魚、ワカサギ)の遊漁の振興策

中村智幸/坪井潤一(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部)
阿久津正浩/髙木優也/武田維倫(栃木県水産試験場)
山口光太郎(埼玉県水産研究所)
星河廣樹/澤本良宏/降幡充(長野県水産試験場 諏訪支部)

第5章 日本における釣りの支出額の推定

国立研究開発法人水産研究・教育機構
水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部

中村 智幸

要旨

日本における遊漁の振興策を検討する際の基礎資料とするため、釣りの支出額を調査した。2016年の釣り人一人当たりの年間支出額は海面58,079円、内水面44,178円と推定された。2015年の釣りの年間支出額の総額は海面2,831億円、内水面1,484億円と推定された。2016年の内水面の主要魚種別の釣りの年間支出額はアユ118,477円、ニジマス58,860円、オオクチバス・コクチバス51,893円、ヤマメ・アマゴ37,006円、イワナ31,069円、フナ13,076円と推定され、アユの年間支出額が他の魚種に比べて多かった。内水面の釣りの年間支出額は他のスポーツレジャーである卓球やサッカー、柔道・空手・剣道等の武道、野球、バスケットボール、バレーボールのそれより多いと推定された。

目的

遊漁のひとつである釣りは自然に親しむ健全なレジャーである。第4次国民生活審議会答申(https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10311181/www.caa.go.jp/seikatsu/shingikai2/kako/spc04/toushin/spc04-toushin-contents.html(旧URL http://www.caa.go.jp/seikatsu/shingikai2/kako/spc04/toushin/spc04-toushin-contents.html)、消費者庁、2013年11月1日)において、「レジャーが労働時間等の残余に過ぎないという従来とかくみられた考え方を排し、人間生活の中で積極的な意義を有する自由時間であるという国民的認識を確立する必要がある。そのうえで、たとえば、自由時間の拡充、レジャーのための物的人的環境の整備、レジャー環境の破壊防止、レジャー政策のための総合調整機構の整備等、積極的な政策の展開が図られなければならない。」とあるように、レジャーの普及やそのための政策展開の必要性が提言されている。また、内水面の漁業協同組合(以降、組合と略す)にとって、釣りを行う遊漁者が組合に納付する遊漁料は大きな収入であり(中村 2019a)、組合にとって遊漁の振興は経営上の重要な課題である。しかし、日本では遊漁について積極的な普及や施策が行われているとは言いがたい(丸山 2005)。その原因のひとつとして、遊漁の実態がそれほど知られていないことが挙げられる(中村 2015)。

そこで、日本における内水面の遊漁の振興策を検討する際の基礎資料とするため、日本の釣りの支出額を把握する。釣りの支出額はレジャー白書(公益財団法人日本生産性本部余暇創研発行)のデータから算出できる。しかし、それは海面と内水面を合わせたものである。本研究では、海面、内水面それぞれおよび内水面の主要魚種別に支出額を求める。

方法

インターネットアンケートにより調査を行った。方法は次のとおりであった。

民間のインターネットアンケート会社に調査を依頼した。アンケートの設問と回答の選択肢は次のとおりであった。


  • 設問1:昨年(2016年)、あなたが釣りに行った場所は次のどこですか。あてはまるものを1つお選びください。
  • 選択肢:
    • 1. 海面のみ(自然の海だけ)
    • 2. 内水面のみ(自然の川や湖、沼、池、用水路だけ)
    • 3. 釣り堀のみ(人工的な釣り堀や管理釣り場だけ)
    • 4.海面と内水面の両方
    • 5. 海面と釣り堀の両方
    • 6. 内水面と釣り堀の両方
    • 7. 海面、内水面、釣り堀のすべて

  • 設問2:昨年(2016年)、あなたが釣りのために使った金額をお書きください。およその額で結構です。(自由記入)
  • 回答:
    • 1. 道具代 (    円)
    • 2. エサ代(ルアーや毛バリ代を含む) (    円)
    • 3. 釣り用の衣料品代や靴代 (    円)
    • 4.遊漁料・入漁料・鑑札代 (    円)
    • 5. 乗船代・渡船代 (    円)
    • 6. 交通費(ガソリン代を含む) (    円)
    • 7. 飲食代 (    円)
    • 8. 宿泊代 (    円)
    • 9. その他(内容・自由記入) (    円)

  • 設問3:昨年(2016年)、あなたが最も回数多く釣りに行った魚は何ですか?釣れなかった場合も含めて「最も回数多く釣りに行った魚」の名前(種類)を1つだけお書きください。(自由記入)

インターネットアンケート会社は自身の会社に登録されている日本在住のモニターにインターネット経由で設問を送付した。回答者の年齢や性別、地域が偏らないように、モニターの年齢構成、男女比、地域による人数の偏りを日本の実勢とほぼ同じにした。レジャー白書の調査の場合と同様に、回答者の年齢範囲を15〜79歳とした。設問1(昨年(2016年)、あなたが釣りに行った場所は次のどこですか。あてはまるものを1つお選びください。)について,選択肢1(海面のみ)と選択肢2(内水面のみ)の回答者合計1,000人を目標に回答を回収した。選択肢1の回答者を海面の釣り人、選択肢2の回答者を内水面の釣り人とみなした。

設問に「日本で」あるいは「国内で」という文言を入れなかったが、回答のすべてを日本での釣りとみなした。

なお、漁業法と水産業協同組合法の規定に基づくと、釣り人には2種ある。すなわち、遊漁者と採捕者である。遊漁者とは、レジャー(自家消費を含む)のために釣りをする漁協の組合員以外の人である。採捕者とは、レジャー(自家消費を含む)のために釣りをする漁協の組合員である。多くの人々は遊漁者を釣り人と認識していると考えられるが、大森(2000)が採捕者を「組合員遊漁者」と表現したように、採捕者はいわば「組合員である地元の釣り人」である。本研究の回答者である釣り人は遊漁者と採捕者である。設問に先立つ回答者のスクリーニング(事前調査)において、「レジャーとして釣りをした人」を調査の対象として選択したので、今回の回答者はレジャー(自家消費を含む)のために採捕を行ういわゆる釣り人(遊漁者と採捕者の両者)である(釣りで採捕を行う漁業者(漁業法では漁業者、水産業協同組合法では漁民)は含まれない)。

結果

一人当たりの年間支出額

845人の海面の釣り人、168人の内水面の釣り人、計1,013人の回答データを得た。

海面、内水面それぞれの釣りにおける各項目の一人当たりの年間支出額の平均値は表1のとおりであった。海面の釣りで支出額が最も多い項目と金額(かっこ内は割合)は道具代の13,997円(24.1%)であり、それ以降は金額の多い(割合の大きい)順に次のとおりであった:交通費11,811円(20.3%)、乗船代・渡船代10,400円(17.9%)、エサ代6,847円(11.8%)、飲食代6,422円(11.1%)、宿泊代2,955円(5.1%)、衣料品・靴代2,693円(4.6%)、その他2,059円(3.5%)、遊漁料・入漁料・鑑札代915円(1.6%)。一方、内水面の釣りで支出額が最も多いのは交通費の12,966円(29.4%)であり、それ以降は金額の多い順に次のとおりであった:道具代9,935円(22.5%)、飲食代7,163円(16.2%)、エサ代3,775円(8.5%)、宿泊代3,265円(7.4%)、遊漁料・入漁料・鑑札代3,143円(7.1%)、衣料品・靴代2,470円(5.6%)、乗船代・渡船代1,375円(3.1%)、その他86円(0.2%)。

一人当たりの年間支出額の合計は、海面58,079円、内水面44,178円であった。

表1 海面と内水面の釣りの項目別の年間支出額の平均値と合計
表1 海面と内水面の釣りの項目別の年間支出額の平均値と合計

年間支出額の総額

前述のように、2016年の一人当たりの釣りの支出額は、海面58,079円、内水面44,178円であった。一方、2015年の釣り人数の推定値は海面4,875,000人、内水面3,360,000人であった(中村 2019b)。一人当たりの年間支出額が2015年と2016年で同じと仮定すると、2015年の年間支出額の総額は海面2,831億3,513万円(=58,079円×4,875,000人)、内水面1,484億3,808万円(=44,178円×3,360,000人)と推定された(表2)。

表2 海面と内水面の釣り人数、一人当たりの年間支出額、年間総支出額
表2 海面と内水面の釣り人数、一人当たりの年間支出額、年間総支出額

海面と内水面の支出額の差額は1,346億9,705万円であり、海面の支出額に対する内水面の支出額の割合は52.4%であった。海面と内水面の支出額の総額の合計は4,315億7,321万円であり、総額に対する水面別の割合は海面65.6%、内水面34.4%であった。

内水面の釣りの魚種別の年間支出額

一人当たりの年間支出額を設問3の「最も回数多く釣りに行った魚」に充当したと仮定すると、10人以上から回答のあった内水面の6魚種の魚種別の年間支出額(2016年)の一人当たりの平均値は金額の大きい順に次のとおりであった:アユ118,477円、ニジマス58,860円、オオクチバス・コクチバス51,893円、ヤマメ・アマゴ37,006円、イワナ31,069円、フナ13,076円(表3)。

表3 内水面の魚種別の釣りの年間支出額の一人当たりの平均値
表3 内水面の魚種別の釣りの年間支出額の一人当たりの平均値

考察

海面と内水面の釣りの年間支出額

2016年の釣りの一人当たりの年間支出額は、海面58,079円、内水面44,178円であった(表1)。内水面に比べて海面の方が支出額は13,901円多く、割合では1.32倍多かった。最も支出額が多い項目は海面では道具代であるのに対して、内水面では交通費であった。二番目に支出額が多い項目は、逆に海面では交通費であり、内水面では道具代であった。これらのことから、海面の釣りは内水面の釣りより費用のかかるレジャー、逆に言えば内水面の釣りは海面の釣りより費用のかからないレジャーであるといえる。また、海面の釣りは内水面の釣りに比べて道具代のかかるレジャーであり、内水面の釣りは海面の釣りに比べて交通費のかかるレジャーであるといえる。

内水面の釣りと他のレジャーとの年間支出額の比較

レジャー白書では釣りはスポーツレジャーのひとつであり、スポーツレジャーには28種ある。レジャー白書には、毎年のスポーツレジャーごとの「参加人口」と「平均費用」が記載されている。「参加人口」は本研究の「釣り人数」、「平均費用」は本研究の「一人当たりの年間支出額」にあたる。それらを乗じることにより、「総費用」、すなわち本研究の「年間総支出額」を求めることができる。ただし、レジャー白書の「平均費用」の内訳は「用具等」と「会費等」であり、交通費や飲食代、宿泊代等は含まれていないと推測される。そこで、本研究の一人当たりの年間支出額から本研究における「交通費」、「飲食代」、「宿泊代」、「その他」を差し引くと、内水面の釣りの年間支出額の平均値は20,698円であった。それに前述と同様に2015年の内水面の釣り人数(3,360,000人)を乗じると、同年の年間総支出額が求まり、その値は69,545,280,000円(695億4,528万円)であった。2015年の各スポーツレジャーの参加人口、平均費用、総費用は表4のとおりである(日本生産性本部 2016。総費用は著者が計算)。総費用(前述のように、本研究の年間総支出額)を見ると、内水面の釣りの年間支出額の総額(695億4,528万円)は16位と17位の間であり、卓球やサッカー、柔道・空手・剣道等の武道、キャッチボール・野球や、釣りよりメジャーなスポーツという印象のあるバスケットボールやバレーボールより多かった。

表4 レジャー白書における2015年の各スポーツレジャーの参加人口、平均費用、総費用
表4 レジャー白書における2015年の各スポーツレジャーの参加人口、平均費用、総費用

支出額の多さは「お金がかかる」という意味がある。しかし、それ以外に「経済効果がある」という意味もある。内水面の釣りはスポーツレジャーの中でも決して経済効果の低いレジャーではないといえる。

内水面の魚種別の釣りの支出額

設問3で10人以上から回答のあった内水面の6魚種の中で、アユ釣りの年間支出額が最も多く(118,477円)、二番のニジマス(58,860円)と約2倍の差があった(表3)。2015年のアユの釣り人数は77.6万人であり、ヤマメ・アマゴの118.8万人、イワナの88.7万人、ニジマスの82.4万人より少ない(中村 2019b)。多くの水産関係者が内水面ではアユの釣り人数が最も多いと考えていると思われるが、実際にはアユの釣り人数は水産関係者の認識より少ないのである。しかし、本研究で明らかになったように、アユ釣りの年間支出額は内水面魚種の中で最も多い。その一方で、アユ釣り、特に友釣りをしたい人が友釣りをできていない大きな理由のひとつに道具の価格が高いことが挙げられており(久保田 2019,山口 2019)、道具の値段の高さがいわば友釣りを始める際の「敷居の高さ」の原因のひとつになっている。アユの友釣りの釣り人を増やすためには、道具を安くしたり、貸し出すなどの工夫が必要であると考えられる。アユ釣りの潜在需要は内水面魚種の中で最も高い、つまり釣りをしたがっている人は内水面の魚の中で最も多い(中村 2020)ことから、友釣り師を増やすことは不可能でないと考えられる。

引用文献

  • 日本生産性本部(2016)レジャー白書2016.公益財団法人日本生産性本部,東京.
  • 久保田仁志(2019)栃木県の那珂川におけるアユ遊漁の実態.水産振興,613,3-16.
  • 丸山隆(2005)内水面における遊漁の諸問題.遊漁問題を問う(日本水産学会水産増殖懇話会編).恒星社厚生閣,東京,133-147.
  • 中村智幸(2015)レジャー白書からみた日本における遊漁の推移.日本水産学会誌,81,274-282.
  • 中村智幸(2019a)内水面漁協の経営改善に向けた組合の類型化の試み.漁業経済研究,62・63,75-87.
  • 中村智幸(2019b)日本における海面と内水面の釣り人数および内水面の魚種別の釣り人数.日本水産学会誌,85,398-405.
  • 中村智幸.2020.日本における海面,内水面および内水面の魚種別の潜在釣り人数.日本水産学会誌,86,214-220.
  • 大森正之(2000)内水面漁業制度への批判論と近年の流域環境・魚類資源問題—内水面漁協を対象とする調査票調査に向けた諸論点の整理—.政経論叢,69,317-359.
  • 山口光太郎(2019)埼玉県の荒川におけるアユ遊漁の実態.水産振興,613,17-47.
著者プロフィール

中村智幸なかむら ともゆき

【略歴】
▷ 1963年(昭和38年)11月、長野県駒ケ根市生まれ。東京水産大学卒業、同学大学院の博士後期課程中退後、栃木県庁に就職(水産職)。11年半の県職員生活ののち、水産庁に転職し、中央水産研究所に配属。水産庁の研究所が法人化され、現在、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 副部長。水産学博士。