多種多様な民間の業者が集まり、それぞれが役割を発揮することで、生鮮食料品などをマーケットに安定的に供給する卸売市場機能が形づくられている。彼らに市場施設という場所を貸し、円滑な運営がなされるよう取り計らっているのが開設者(公設の場合は多くが地方自治体)だ。豊洲市場では東京都が務める。第9回開設者編で登場するのは、移転の混乱期に築地市場場長を務めた松田健次管理部長(52)。
外に向け開かれた市場に
豊洲市場は首都圏の水産分野で、規模的に競合といえる市場のない、あえていうなら場外しかライバルのいない巨大市場だ。それに対して僕らができるのは、商売の主役を担う市場業者の皆さんにとっていかに「よい環境」をつくるかだろう。
卸売市場は「まち」のようなものだと思う。卸・仲卸で働く人々に加え、仕入れで出入りする買出人、日常を陰から支える関連事業者らを含めると、膨大な数の関係者がいる。そんな豊洲で、ひと口に「よい環境」といっても立場が違えばそれぞれ異なる。業者の皆さんの声をよく聞き、開設者として譲れない部分はきちんとした理由を添えてその旨を丁寧に伝えながら、調整していくことが肝心だと思っている。
経営戦略のような「行政から見た光景」をそのまま伝えても、業者の皆さんには響かない。築地市場での場長時代に学んだのは、現場で起きている事実がすべてということ。市場業者の皆さんがきょうという日をつつがなく過ごし続けるために、困っていることは何か、どんな不満があるのか、僕らが何をしたらよいかということをとことん話し合いながら、「行政から見た光景」も、きちんと現場に落とし込んでいく。開設者として、現場を大切にする雰囲気を今後も伝承していく必要があると考えている。
築地市場場長からの異動後も市場移転問題の最前線で活躍した
衛生面向上は評価
築地時代と比べると、衛生面向上は業者の皆さんの多くに評価いただいている部分と感じる。例えば水産仲卸売場の側溝などだ。浅くしたことでマメに掃除しないと詰まりが起きる構造になったが、それによって日々の清掃が行き届くようになり、結果的に初めて訪れる外部の方からも認められるレベルに近づいた。
場内が無法地帯化しつつあるのではという指摘があることは承知しているが、違法駐車などによる場所の占有が日常的に横行していた築地時代と比べ、現場の人間のがんばりで場内秩序は一定の水準には保たれていると考えている。ただ、結局は現場で何が起きているのかがすべてなので、日々の困りごとの解決にしっかりあたり続けたい。
寄り添いと後押し
豊洲市場は都内にとどまらず、わが国の食全体を支えている。荷物を出荷してくださる全国の産地の期待に応え、仕入れに訪れる実需者の利便性向上の助けになり、消費者を笑顔にすることが市場に求められた使命。豊洲が将来にわたってそれを実現していくため、業界の皆さまとともに「共同経営者」として何ができるかを日々考えている。
過去の経緯はさまざまあったが、豊洲市場という新施設はできた。現状追認的な変更という意見はあるものの、改正卸売市場法も昨年6月に施行された。「新しい酒は新しい革袋に盛れ」の言葉があるように、こうした環境の変化をうまく生かして、もっと外に向けて開かれた豊洲に変わってはいけないだろうか。市場法改正後は国の関与が薄れ、開設者の裁量権が増している。都が人員を増やせてはいないので、今まで以上のことはなかなかできていないが、より責任をもって市場の運営にあたりたい。
新ビジネスに意欲的な業者の皆さまは「中央卸売市場強靭化推進事業」で支援しつつ、日々の経営に悩みを抱える業者の皆さまは経営相談に乗るなどして、「寄り添いと後押し」で支えていきたい。(つづく)