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水産振興コラム
202210
ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい
第11回 豊かな自然が育むブルーカーボン生態系活用への期待
小松 茂
北海道釧路町長
小松町長(漁船にて)

釧路町は、北海道の南東部に位置し、北部は広大な釧路湿原国立公園、南部は太平洋に接する厚岸霧多布昆布森国定公園といった2つの自然公園をもつ豊かな自然を有する地域です。

町の基幹産業である漁業が中心である釧路町昆布森地域は、前浜や町域沿岸から獲れる良質な昆布と定置網漁によるサケ・マスや多くの魚種で人々の暮らしを支えています。

特に昆布については、2015年のミラノ万博への出展をはじめ、「本場の本物」ブランド推進機構に、さお前昆布が認証されるなど、その品質は最高品として高く評価されています。

また、現在では「つくり育てる漁業」が定着し、その代表的な水産物として昆布森の昆布を食べて育った「昆布森産のエゾバフンウニ」や「仙鳳趾の牡蠣」は品質的にも市場から高い評価を得ており首都圏では高値で取引されています。

昆布森地域は、そのものが北太平洋シーサイドラインの美しい景観を有する観光資源であるとともに、豊かな水産資源を育む恵みをもたらす町のかけがえのない財産となっています。

さて、近年、地球温暖化を起因とする気候変動は世界中の人々や生態系に影響を与える深刻な問題となっており、世界各国における地球温暖化抑制に関する意識も急速に高まりつつあります。

釧路町の豊かな自然を守り、未来に繋げていくために、令和3年12月に「2050ゼロカーボンシティ宣言」をし、町民や地域、企業の皆様と一体的に取り組むことといたしました。

現在、SDGsの理念を踏まえた第6次釧路町総合計画の推進を始めるとともに、2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロ化に向けて計画策定を行い、これら計画に基づき着実な取組みを進めていかなければならないところであります。

釧路町では、広大な森林が二酸化炭素吸収源として大きな働きをしていることは明らかですが、さらに二酸化炭素吸収源として当町の有する湿原や、コンブを始め豊かな藻場等の機能が認められることを期待しているところであります。

特に、昆布森沿岸をはじめ、道東太平洋沿岸域に生息する「ナガコンブ」は、文字通り非常に長い昆布で葉体の長さは最大で20mに達するものがあり、世界のコンブ属中、最も長い昆布であることから、ブルーカーボンとして大きな機能を有しているのではないかと推察するものであります。

古くから昆布森沖では豊かなコンブなどを育む藻場を保全するために、昆布森漁協の組合員で構成する「昆布森の海を守る会」が、海底の岩盤清掃とモニタリング調査を毎年行っています。昆布森沿岸で行われる藻場保全の範囲は約60ヘクタールにもわたり全国一と言われています。

岩盤清掃の方法としては、漁船から海底に専用チェーンを降ろし引き廻す方法のほか、船上(台船)のブームに取り付けられた回転装置の先端にある特殊形状のチェーンを海底において回転させる手法が用いられます。

岩盤清掃を行った箇所は、毎年、ダイバーにより海藻の着生状況を確認するため、枠取り調査が実施され、清掃後の岩盤は藻場の再生機能が大きく向上していることが確認されており、その効果を毎年肌で感じております。

チェーンを用いた岩盤清掃1
チェーンを用いた岩盤清掃2
チェーンを用いた岩盤清掃3

コンブ育成のための取組みは古くからこの昆布森沿岸で行われており、今後、漁家が減少していく中では、この藻場保全の取組みは将来的に、藻場が吸収する二酸化炭素吸収枠をクレジットとして販売することで、漁業活動の維持に繋がるのではないかと期待をしているところであります。

先日、昆布森漁協青年部と意見交換会を開催しました。

若い青年部のメンバーからは、漁獲量が減少している水産物の高付加価値化や販路拡大に向けた前向きな意見が出されるとともにブルーカーボンも話題にのぼりました。

青年部では10年前からトロロコンブの海面養殖を行っておりますが、この取組みを活かし、養殖ロープに付着したオニコンブやスジメといった現在は漁獲物としていない海藻も海の二酸化炭素吸収増加に繋げられるのではないかということで、その可能性について議論が弾んだところであり、現在、その具体的な一歩に向けた取組みが検討されております。

青年部養殖作業(トロロコンブ養殖)

今後は、この古くから取り組んでいる藻場の保全活動や海藻養殖といった取組みと合わせた環境保全活動をブルーカーボンに結び付けていくことが、長い目で町の基幹産業である漁業の振興にも繋がっていくものであると考えています。

さらに釧路町昆布森沖から繋がる釧路市、厚岸町、浜中町の道東太平洋沿岸域は沿岸親潮の影響を受ける同じ海域で、コンブを始め多種多様な海藻を育む豊かな漁場となっています。

この海域で獲れるナガコンブやアツバコンブは北海道でも特有のものであり、漁法や生産方法、藻場の保全方法はほぼ同じ形態となっています。

今後、広域的な観点でブルーカーボン生態系の活用に向けた取組みを推進していくことが、釧路管内市町村で構成される「地域づくり広域プロジェクト」の中でも打ち出されました。

豊かな藻場を有する道東太平洋岸沿岸域で、ブルーカーボン生態系の活用に結び付く取組みが展開されることが、自然と資源豊かな北海道における新たな二酸化炭素吸収源の創出の起爆剤となることを大いに期待するものであります。

第12回へつづく

プロフィール

小松 茂(こまつ しげる)

小松 茂(釧路町長)

昭和33年1月8日生れ。釧路町昆布森出身。平成3年の初当選以降、3期にわたって釧路町議会議員を務め、平成15年に北海道議会議員に初当選。4期16年の北海道議会議員を経て、平成30年11月に釧路町長に就任。趣味は船釣りで座右の銘は「切磋琢磨」。好きな映画は「釣りバカ日誌シリーズ」という「現役の漁師」の町長である。